読書人の雑誌『本』
中小企業の底力---黒崎誠・著『世界に冠たる中小企業』

2014年の早春から秋風の吹く9月中旬まで、世界トップのシェア、技術を持つとされる中小企業の取材のため全国を飛び回った。100万分の1ミリ、1グラムにこだわって製品をつくる超先端のナノテクノロジー、中小企業のお家芸である匠の技・・・・・・といったように方法こそ違えど、はっきりしたのは、日本の中小企業こそが日本どころか世界のモノづくりの礎となっていることだった。

今回の取材で得られた二十数社の奮闘ぶりは、2月18日に発売予定の講談社現代新書『世界に冠たる中小企業』としてまとめられる予定だ。大学で中小企業論を担当している筆者の重大なテーマの一つが、「町工場と呼ばれるような小さな企業がなぜこれほど高い技術やシェアを有しているのか」、それと同時に「このような高度の技術をいかにして次世代に継承していくか」である。そして、最終的に一冊の本として上梓しようと決意したのは、東日本大震災の際、あらためて日本の中小企業の底力を痛感させられたからだった。
 

震災では、東北や北関東の“町工場”と呼ばれる中小企業の多くが大きな被害を受け、操業停止に追い込まれたところも少なくなかった。するとトヨタ、ホンダなど国内の自動車メーカーだけでなく、世界の名だたる自動車メーカーまでもがクルマをつくることができない騒ぎとなった。

また、地震発生時、東北新幹線は27本の列車が200キロ以上の猛スピードで走行中だったが、いずれも2分以内に急停止し、一人のけが人を出すこともなかった。新幹線の急停止に使われる主要な機器類は、大手メーカーでつくられたものであるが、その電気回路に使われる抵抗器など主要部品の多くは、中小企業がつくっている。また、時速300キロ以上の猛スピードで走る新幹線の車輪は、日本を代表する大手企業がつくっているが、その車輪を1000分の1ミリの精度で切削加工する工作機械をつくっているのは、従業員百数十人の中小企業だ。世界に誇る日本の新幹線技術を支えているのは、まぎれもなくこうした中小企業なのである。

昨年話題となった「はやぶさ2」の重要部品をつくったのは、ナノテクの技術を持つ宮城や大阪の中小企業だ。世界トップの競争力を持つとされる自動車、ロボットなどの最先端産業だけでなく、東京スカイツリーから宇宙開発のロケットなどまで、“縁の下の力持ち”的な役割を果たしている中小企業は数え切れない。

身近なところでいえば、最近のカメラは、ピント合わせにほとんど苦労しない。また、手ブレなどの心配もほぼないが、この技術の開発に重要な役割を果たしたのは、世界的なナノテクの技術を持つ日本の中小の精密機械メーカーだ。

日本だけでなく世界経済を支えている日本の中小企業であるが、その多くは国民に名前どころか存在さえあまり知られていない。最盛期の1985年に中小製造業(従業員四人以上)は43万8000社あまりだった。それが、2000年には31万社、2005年25万1000社、そして現在では20万社を割っている。

大手企業の海外進出、海外を含めて安い価格の部品を供給するLCC(ロー・コスト・カントリ)などにより、転廃業に追い込まれる中小・零細企業が後を絶たないからだ。かつて、中小企業の街として栄えた東京の大田区、品川区や、関西の東大阪市も活気溢れていた往年の面影はなくなりつつある。

厳しさを増す一方の環境の中で、「この製品をつくれるのは世界広しといえどもわが社だけ」のオンリーワン、「世界の70~80パーセントのシェアを持っており、模造品をつくられないよう韓国や中国には輸出を制限しています」といった底力のあるところや、「数年後には世界に飛躍します」といった元気な中小企業が、まだ日本に数多くある。こうした中小企業の存在を少しでも知っていただきたかったのも、今回の刊行の動機の一つになっている。

底力のある中小企業の多くは、東北、北陸、中国地方などに本社・工場を置き、働く社員のほとんどは地元の高校を卒業した人達であり、地元の雇用、経済面で大きく貢献している。安倍内閣は、地方の創生をアベノミクスの一つの柱としている。だが、その中身は、過疎地域への定住人口還流の促進、農業、観光産業の活性化など、従来の発想から抜け出せないままだ。

アベノミクスにケチをつける気はないが、これだけで地方創生が成功するとは思えない。従来から地方で頑張っている中小企業の強化・育成や、起業家精神に溢れた新たな中小企業を生み出すことが、真の地方創生に繋がることになるだろう。

(くろさき・まこと 帝京大学経済学部教授)
読書人の雑誌「本」2015年2月号より

黒崎誠(くろさき・まこと)
1944年、群馬県生まれ。時事通信社に入社後、一貫して経済畑を歩み、経団連、日銀、旧大蔵省などを担当したほか、リクルート事件など大型経済事件も報道してきた。宮崎支局長、福島支局長、編集委員、解説委員などを歴任。2004年退社し、現在帝京大学経済学部教授。著書に『会社更生法と管財人』(教育社)、『我が企業再建』(プレジデント社)、『世界を制した中小企業』(講談社現代新書)など。

* * *

黒崎誠・著
『世界に冠たる中小企業』
税抜価格:800円

中小企業が日本経済を支えているのではない。
中小企業こそが日本経済の中核なのだ。
中小企業の再生こそが、日本経済の復活と地方創生のカギとなる!

 => Amazonはこちら
 => 
楽天ブックスはこちら


 ★ 読みやすい会員専用のレイアウト
 ★ 会員だけが読める特別記事やコンテンツ
 ★ セミナーやイベントへのご招待・優待サービス
 ★ アーカイブ記事が読み放題
 ★ 印刷してじっくりよめる最適なレイアウト・・・などさまざまな会員特典あり

▼お申込みはこちら
 http://gendai.ismedia.jp/list/premium