ブルーバックス
『99.996%はスルー』
進化と脳の情報学
竹内 薫=著 丸山篤史=著

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無意識にスルーしている情報が
われわれを形作っている

 インターネットやスマホの普及によって、流通する情報量は飛躍的に増加した。しかし、われわれはまわりを飛び交う全情報量のたった0.004%しか受け止めていないとしたら、これから情報化社会で生き残ることができるのか? 進化の過程で膨大な数の遺伝子を取捨選択し、脳を大きくしながら記憶を捨て去ってきた人類が次にすべきこととは? 生命科学と脳科学からそのヒントを探る。


はじめに

 人生はスルーの連続。

 自分が他人や商品をスルーするときは別段意識もしない。でも、自分が、他人や商品からスルーされると急にたとえようのない悔しさで一杯になってしまう。

 うん? どういうこと?

 若いとき、意中の人に告白して「ごめんなさい」と断られた経験はありませんか?(初恋の人と相思相愛で結婚するなんて、一種のおとぎ話なんですね~。でも若いときは気づかない)。この「ごめんなさい」は、そもそもあなたが彼女(彼)から「スルーされていた」から起きた悲劇なのだ。相手はあなたを特別な存在として意識していなかった。だから、告白されるなんて微塵も考えていなかった。いきなりの告白にびっくり仰天して、とっさに出てきた言葉。それが「ごめんなさい」。

 スルーしていた側は驚いて、それから友だちにこう打ち明ける。「さっき、××くんから告白されちゃった~」。その後の会話はこんなふうにして進む。

「え~? 信じられない~。そんでなんて返事したの?」

「だって××くんのことなんでほとんど知らないし、ごめんなさいって断ったわよ」

「キヤハハ、そうよねぇ! ××くん、クラスでもほとんど目立たないもんね。きっと付き合っても楽しくないよ」

「あーあ、××くんじゃなくて○○くんから告白されないかな~」

「え~? あの野球部主将で甲子園に出場する○○くん? 狙ってるの? みんな狙ってるからめちゃめちゃ競争厳しいわよ」

 いや、想像の会話が長くなりすぎました。でも、このような悲劇は日本で一日のうちに何万件も起きている。この会話のあとも、目立たない男子を振った女子は、野球部の主将に告白して「ごめんな、オレ今、野球のことしか考えられないんだ」と断られるのであろうし、その野球部の主将も自分のエラーで甲子園での優勝を逃したうえにプロの球団のドラフトからはスルーされてしまう。悔しい、悔しい、めちゃめちゃ悔しい! いったいなんでこうなった?

 人生からこのような「スルーして、スルーされる」状況がなくなったら、どんなに幸せだろう。でも、現実の人生はスルーの連続。スルーこそが人生の基本。まずは、そのことを認めなくてはいけない。

 人生劇場ばかりがスルーの舞台じゃない。大々的に立ち上げた新製品のキャンペーンが失敗して、顧客からスルーされることなんて当たり前。商品の売り上げランキングでも、爆発的に売れるのは「1番だけ」と相場が決まっている。ランキングの2番以下は、1番を目立たせて、さらに売れるようにするための応援団。大半の客はランキング1位のみを意識にインプットし、その商品に群らがる。前評判がいいと、1ヵ月前に予約していても、発売日には手に入らなくなったりもする。すると、供給不足によって、その商品の希少価値はいやがうえにも高まり、さらに販売に拍車をかける。いわゆる「勝者が全てをさらってゆく」法則だ。