安倍首相と日本政府が翁長雄志沖縄県知事に会いたくない2つの理由

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.054 文化放送「くにまるジャパン発言録」より
米軍の普天間飛行場---〔PHOTO〕gettyimages

伊藤: 「普天間、県外移設要請 沖縄県知事、日米政府に『5年以内』」。東京新聞総合面(2月6日朝刊)から。

沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事は昨日、外務省と防衛省を訪れ、普天間飛行場(宜野湾市)を5年以内に運用停止し、県外に移設するよう求めました。翁長知事は要請後、記者団の質問に答え「普天間の一日も早い危険性除去に取り組んでもらいたい」と強調しました。

外務省、防衛省とも、大臣、副大臣は応じませんでした。普天間の名護市辺野古移設に反対する翁長知事の上京は去年12月の知事就任以来、6度目になりますが、辺野古移設を推進する安倍晋三首相や沖縄基地負担軽減担当大臣を兼ねる菅義偉(すが・よしひで)官房長官との会談は実現していません。

邦丸: 昨年、翁長知事が誕生して以来、日本の総理大臣、官房長官はまだ、お会いになっていないということなんですが、そのなかで、みなさん、こういう条約文があったのをご存じでしょうか。琉球とアメリカ、琉球とフランス、琉球とオランダ――琉球というのはあくまでも独立した国です――、この3つの国と修好条約を結んでいた、その原文が141年ぶりに沖縄に里帰りするニュースが出ています。

佐藤: そうなんですよ。これが今、沖縄ですごい大きなニュースになっていまして、今月末から3月の終わりまで、条約文が沖縄で公開されます。琉球王国が国際法の主体としてアメリカ、フランス、オランダと結んだ条約の本文――これはいわゆる琉球処分のちょっと前なんですが、そのときに琉球を日本の一部にするから国際条約なんか持っていては面倒臭いということで、召し上げちゃったんですよ――が、141年ぶりに沖縄に戻るということで、これは「沖縄がもともと独立国だった」という歴史の記憶を沖縄のなかで甦らせるでしょうね。ですから、この翁長知事の誕生というのは、こういう歴史の見直しということにもすごく結びついているんです。

翁長さんというのは、県民の圧倒的多数により信任されているわけですよね。だから、翁長さんと会わないということは、それを沖縄でどう受け止められるか。政府は沖縄の民意を代表している人と会う気はない。仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)前知事は、ある時期から沖縄の民意よりも東京の中央政府の意向を代表するようになった。そうしたら、ものすごく親しく会うようになった。こういう姿勢というのは、どういうことか。バカにしているんじゃないか。

しかも、翁長さんというのは保守なんですよ。あの人は、集団的自衛権は必要だと言っていますしね。それから、日米安保条約というのは生命線だと言っていますし。翁長さんの本音は、「日米安保条約は重要だし、嘉手納基地も維持しなければいけない。そのためには、普天間に大きな基地を欲張ってつくるということになると、日本国土の0.6%しかない面積のところに、74%の基地があるというのは、もうムリだ。これ以上の負担はできないから勘弁してくれ」ということにすぎないんですよ。

なんで、それに耳を傾けないのか。これは、本当にわれわれを同胞と見なしているのか――そういう意識になる。そうすると、「もともと違うもんね」という意識が今、強まっているんですね。

邦丸: それにしても、安倍さんにしても菅さんにしても、なんでこんなに頑なに会わないんですか。

佐藤: 安倍さんにしても菅さんにしても悪い人じゃないんですけれど、率直に言うと、かける言葉が見つからないんだと思うんですよ。

邦丸: かける言葉が見つからない!

佐藤: 要するに、「なんとしても辺野古をつくります」「ちょっと待ってください」という論戦になる。論戦になったら、たぶん勝てないと思っているんですよ。

邦丸: ははあ。

佐藤: だって、「私、安保条約は賛成ですし。このままでは民意を考えたら大変なことになるじゃないですか。それから、普天間の海兵隊って、台湾海峡とか朝鮮半島の有事に備えているんですか。それならなんで沖縄に3ヵ月しかいないで、オーストラリアとかモンゴルの砂漠で訓練しているんですか。砂漠で訓練しているということは、考えているのは中東での有事でしょ。沖縄と直接関係ないでしょ」と、具体的な事実を突きつけられると、なかなか反論できないですからね。

邦丸: ふーむ。

佐藤: 森本敏・元防衛大臣が最後の記者会見で、米軍普天間飛行場の移設先について「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適の地域だ」と言っていた。これが実態なんですよね。

邦丸: 沖縄県知事選挙のときに、翁長さんが知事になるという当選結果が出たときに、佐藤優さんが那覇のラジオ沖縄のスタジオでおっしゃったのは、「沖縄県として、自治体としてワシントンに1人か2人かわからないけれど駐在職員を置くんじゃないか。あるいは、沖縄のアメリカ事務所を置くんじゃないか。そういう考えが翁長さんにはおありなんじゃないか。日本政府を通すのではなくて、ダイレクトに合衆国政府との対話を始めるんじゃないか」ということでした。

佐藤: ですから、その代表に、那覇のアメリカ総領事館に勤めていた人を任命しましたね。

今、日本政府が頑なに翁長さんに会わないというもう一つの理由は、翁長さんはケネディ大使に会いたいと、ずっと要請しているんですよ。ところが、アメリカはまだ日本の閣僚が会っていないところでアメリカだけが先走りたくないという感触なんですね。ですから、政府と会った次の段階で、沖縄が直接アメリカと交渉する、あるいは国連に訴えることになるのをなんとしても止めたいと政府は思っているんでしょう。

いずれにしても、沖縄の状況がどうなっているかということを、自分たちの希望的観測ではなくて、等身大で見なければいけないと思うんですけれど、なかなかそこは難しいんですよね。

私は、沖縄と日本は一体であってほしい。それは、父親が日本人、母親が沖縄人ですので、非常に強く思うんですよ。そのためには、やっぱり沖縄への過重負担ということで、「同胞と思っていないんじゃないか」という疑念を沖縄が持っていて、それに対してぜんぜん応えていない東京の中央政府、これが問題だと思うんですよ。普通の日本国民に関しては、そんな細かいことは知らないですしね。べつに、沖縄とそんな対立を起こそうと思っているわけではないですから。

マスコミにしても、こういった条約(琉球王国がアメリカ、フランス、オランダと結んだ条約)があって、それが里帰りするんだということが、東京のメディアではほとんどスルーされちゃっていますからね。沖縄では大きなニュースになっているのに。最近、そういうことが多いんですよね。(・・・以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.054(2015年2月13日配信)より