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喜んでいると痛い目に この原油安も、とても気持ち悪い
全国民必読 日本経済「異変とこれから」【第3部】
原油安に苦しむロシアの油田〔PHOTO〕gettyimages

「逆オイルショック」再来

いま、世界経済を語る上で最も熱いトピック「原油安」は、日本経済にとって吉か凶か—永濱利廣氏と徳田秀信氏が激論を交わす。

永濱 原油価格(WTI)は昨年6月に1バレル107ドルをつけましたが、今年1月には45ドルにまで急落しました。原油安は、日本や欧米、中国やインドなどのアジア諸国にとっては、プラス要因です。世界のGDPの4分の3はエネルギー輸入国が稼ぎ出しているので、世界経済全体にとっても原油価格の下落は好材料になるのです。

徳田 ただし、ここまで急激に原油価格が下がると、産油国が受けるダメージはとても大きい。基本的に原油安は日本経済にとってプラス要因だと思いますが、過度の油価下落は世界経済を混乱させるリスク要因にもなるので注視する必要があるでしょう。

永濱 しかし、現段階ではそこまでリスクが拡大しているとは言えません。

わかりやすいプラス材料として、日本が貿易することによって起こる所得の海外流出の減少があります。1バレルが100ドルから60~70ドルに下がると流出は10兆円ほど抑えられる。家計だけの影響で見ても、消費税率1%を引き下げるのと同じくらいの効果があるのです。

原油が安くなると、まずガソリン、軽油、灯油の価格が下がり、次に電気やガス料金が下がる。やがて魚や野菜の値段も下がってくる。仮に輸送コストが価格下落に結びつかなくても、企業のコスト削減、ひいては従業員の給与増になるでしょう。

徳田 たしかに、国内だけ見ればいいことづくめのようにも思えます。でも喜んでばかりはいられません。海外での資源開発に力を入れてきた商社や国際石油開発帝石といったエネルギー開発会社は目に見えて業績が悪化している。出光興産も2月3日の決算発表で、'06年の上場以来初の営業赤字(1200億円)になることを発表しました。

また、原油安は日銀が掲げるインフレ目標(2年で2%)の達成を難しくするでしょう。アベノミクスの重要な課題であるデフレからの脱却に対するハードルが上がっているのです。

永濱 短期的に見れば、デフレ圧力が高まっているのは事実です。しかし、原油安は物価を押し下げながら実体経済にはプラスに働くので、時間差でインフレ率を押し上げる効果があります。

'86年にも原油価格が急落した「逆オイルショック」がありました。'86年、'87年のインフレ率はとても低かったのですが、'88年にインフレ率は急上昇したのです。ですから、私は原油安の影響で'16年のインフレ率が2%を超える可能性が高まったと見ています。

徳田 世界全体を見渡すと、原油安が市場を混乱させるリスク要因となっている国もありますね。

永濱 今回の原油安の原因は、そもそもの需要が弱いということに加えて、各国の外交的な思惑も複雑に絡んでいます。米国のシェール・オイルつぶしのために、サウジアラビアが意図的に価格を抑えている。あるいは米国がサウジと結託して、シリアとつながる産油国であるイランやロシアに圧力をかけているという見方もあります。

徳田 昨年12月にはロシアの通貨ルーブルが急落しました。その背景には、油価下落や欧米の経済制裁がある。いますぐにロシアがデフォルトする可能性は低いですが、リーマン・ショック後の'09年のようなマイナス成長は避けられません。そうなると日本企業で一番ダメージが大きいのは自動車産業です。ロシアとの交易が比較的大きい業種ですから。

欧米の対ロシア制裁強化によって、ロシアの経済悪化がより深刻になれば、世界の投資家心理が冷え込んで、株価が急落することだってありえます。

永濱 他に原油安で苦しくなるのは中東諸国ですね。今まで産油国は莫大なオイルマネーをばらまくことによって、国民の不満を抑えることに成功してきました。そのような資金が枯渇すると、中東各国で政治的に不安定化するところが出てくるでしょう。

もう一つ注目すべきイベントとして3月のイスラエルの総選挙があります。再選を目指す与党はタカ派と共闘しようとしていますので、イランやパレスチナに対して強硬姿勢に出る可能性が高い。中東の地政学的リスクが高まれば、原油価格は大きく揺り戻し、乱高下するでしょう。

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