日本に対外インテリジェンス機関を設け、テロ対策を行うことは非現実的。その理由を指摘した警察官僚、松本光弘氏の本『グローバル・ジハード』

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.054 読書ノートより

●松本光弘『グローバル・ジハード』講談社、2008年12月

「ISIL(いわゆるイスラム国)」による日本人殺害事件を受けて、日本にも対外インテリジェンス機関の設置が必要であるという声が上がっている。例えば、こんな報道がなされた。

<石破氏、対外情報機関の検討必要

石破茂地方創生担当相は24日、テレビ東京の番組で、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が日本人2人を殺害すると脅迫した事件を受け、対外情報機関の創設を検討すべきだとの考えを示した。「情報収集する組織をきちんとつくることに取り組むかどうかだ。早急に詰めないといけない」と述べた。

自民、公明両党は昨年4月、特定秘密保護法に基づく政府の秘密指定をチェックする国会機関の制度設計を検討するプロジェクトチームで、対外情報機関の創設に向けて協議を進めることを確認している。>(1月24日「産経ニュース」)

しかし、日本の現状を考えた場合、対外インテリジェンス(情報)機関がテロ対策を行うことは、非現実的だ。警察官僚の松本光弘氏の以下の指摘が適切と思う。

<では、対外諜報機関は国際テロ対策に役立たないのだろうか。

既に対外諜報機関を持っている諸国においては、それがテロとの闘いで名脇役として活躍する場面も多い。しかし、それは既存の諜報能力を前提として考えた場合だ。わが国のような独自の対外諜報機関を持っていない国にとって、国際テロ対策のため(だけ)に新たな対外機関を作るべき理由にはならない。

もちろん、北側鮮のようなテロ支援国家などに対する戦略諜報の収集分析能力を高めることは、大いに必要である。しかし、イスラム過激派によるジハード主義テロの場合は、敵の性格が全く異なる。

新たな機関を創設する際、内外区別の不毛性を何とか乗り越える制度的工夫をこらすという選択肢もある――しかし、実効性はまず期待できないと思われる。全くゼロからのスタートは現実的でないため、せいぜいが寄り合い所帯となり、組織内に壁ができるからだ。そのうえ、独自の対外諜報機構を整備するには莫大なコストがかかる。

国内諜報機関に比べて対外諜報機関は(1)海外での活動に適している、(2)地元治安当局との連携も得意である、(3)その諜報分析官が貢献しうる、などの指摘もなされる。しかし、いずれも既存の対外諜報機関を前提とした議論だ。

わが国には既存のそうした機関がないのであり、新たに作るよりも警察テロ対策要員が海外展開した方が余計な壁ができない点で好ましい。海外機関との連携も、どれだけ既に海外展開しているかの議論であり、捜査機関要員が海外展開していれば十分だ。分析についても、捜査機関の分析能力をさらに向上させる努力が必要なだけであろう。

また、そもそも国家間の諜報交換においては、当方が与えた質・量に応じて先方から得られる「ギブ・アンド・テイク」や、知る必要がある最小限の者のみに知らせる「ニード・トゥ・ノウ」が原則である。そのため、テロ対策での連携に当たっては、対外機関や外交機関という余計な層を介さず、地元に関する知識を持っている各国国内機関同士で直接行うことが、互いにとって望ましい。

したがって、テロとの闘いは海外での活動も含めて国内機関が担当するのが望ましく、国際テロ対策のためには治安諜報機関が必要に応じて対外展開すべきであろう。>(382~383頁)

テロ対策は、警察庁の担当部局を強化する方向で行うのが適切と思う。

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・池内恵『イスラーム国の衝撃』文春新書、2015年1月
・黒井文太郎『イスラム国の正体』ベスト新書、2014年12月
・小林良樹『インテリジェンスの基礎理論 第二版』立花書房、2014年6月

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.054(2015年2月13日号)より