安倍政権による農協解体は竜頭蛇尾に終わる
古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン Vol.118「日本再生のために」より
〔PHOTO〕gettyimages

安倍総理が、今国会の目玉にしようとする農協改革。昨年からマスコミには「農協改革」という見出しが見られるようになった。そこで不思議だったのは、この話が、ネット上などでは、「農協解体」だというような表現で取り上げられるようにったことだ。農協が「解体」されるのであれば、大変なことだ。「解体」という言葉は、いかにも農協がなくなってしまうかのような響きがある。少なくとも、これまでにない、抜本的改革が行われるだろうという期待と不安を産む言葉だ。

そうした雰囲気が作られる中で、今年の初めから新聞紙上には「全中解体」の文字が浮かぶようになった。「農協解体」と「全中解体」とは全く意味が違うが、何となく同じようなものだと国民には受け取られている可能性がある。

実は農協の組織は、地域と機能の両面で縦横のネットワークが張り巡らされており、結構複雑だ。ここではごく大づかみに整理しておこう。

全国の農協組織の頂点に立つのが、今話題になっている全中(全国農業協同組合中央会)。その傘下には、保険事業を束ねる共済連、金融事業を束ねる農林中金、農産物販売などを行なう全農があり、地域別には、全国の約700の地域農協とそれを都道府県ごとに束ねる都道府県の中央会がある。全中は、これらの傘下団体に対して、監査や指導を行なう権限を法律で与えられている。全中は、監査・指導を名目に年間80億円もの収入を得るという構図だ。

今国会に提出される関連法案に盛り込まれるのは、地域農協を束ねる全中を一般社団法人(特別に法律で与えられた権限や特権などがない)に転換し、地域農協への監査・指導権限をなくすことがその中核になる。

公平に見て、これは確かに大きな変更ではある。しかし、その中身が「解体」とか「抜本的改革」と呼ぶにふさわしいものかどうかと言うと、私の見立ては極めて否定的だ。少なくとも岩盤規制を突き崩すというような効果は期待できない。客観的に言えば、今放っておいても進んでいる地域レベルの改革の動きを邪魔することが少なくなるという程度の効果しか期待できないだろう。

何故全中は政府・自民党の「改革案」を受け入れたのか
 ~ドル箱の金融事業を温存してしまった

今回決着した「改革案」に大した効果がないことを最も端的に表すのが、改革の対象である「全中」が、つい1週間前までは、断固受け入れ拒否と言っていたのに最後はすんなりと受け入れを決めたことだ。つまり、全中から見れば、この程度の「改革」なら大きな血は流れないと判断したということがわかる。

では、どのように「改革」が骨抜きにされているのか。

そのヒントは、佐賀県知事選にも見られるとおり、全中だけでなく、地域の農協が「全中解体」に反対していたことにある。本来、全中の権限をなくし、地域の農協はより自由になり、監査・指導料も払わなくて良いということであれば、地域農協は反対する理由はないのではないかという疑問が湧く。

しかし、現実には、地域農協には非常に心配なことがあった。その一つが、准組合員問題だ。農協には農家である組合員と農家ではない准組合員がいる。現在は、准組合員の方が多い。この准組合員を対象にした金融・保険事業の収益の方が、本来の農業分野の収益をはるかに上回っていて、農協にとっての生命線になっている。

この金融関連事業は、民間の銀行や保険会社から見れば不当に優遇された条件で事業を営むライバル企業であり、農協バンクもJA共済もその規模は日本のトップレベルに匹敵するまでに膨らんでいて、明らかに民業圧迫となっている。

当初の改革案では、この金融事業の膨張に歯止めをかける意味も込めて、准組合員の利用に制限をかけることが検討されていたが、これが実施されれば地域農協にも大打撃になるはずだった。したがって、地域農協も反対ということになるわけだ。しかし、この劇薬はあっさりと撤回された。

全中の監査権限廃止は地域農協にとってマイナス?
 ~事実上馴れ合い監査を温存

もう一つの懸念が実は今回の妥協劇のポイントになる。それが全中の監査権限だ。これがなくなるということは、全中にとっては、80億円の収入がなくなる可能性があり、監査部門は廃止することになり、多くの人員が路頭に迷う。

一方、地域農協は、全中以外の一般監査法人の監査を選ぶことができて自由度が増すから、一見、地域農協にとっては得なように思える。しかし、実は、この改革の結果、仮に地域農協が一般の監査法人の監査を受けるしかなくなるととんでもないことが起きる可能性がある。

何故なら、今までの全中による監査は、身内が行うことによって、なあなあの緩い監査だったというのが一般の評価だ。そうした監査を受け続けている地域農協に、普通の民間企業並みの監査を行なえば、多くの地域農協が実は破綻していたとか、経営状態が公表されているものよりもはるかに悪いことがわかってしまうという懸念があった。本来は、その方が長期的には地域農協の健全経営につながり望ましいはずだが、その対象となる農協から見れば、急にルールを変えられるようなもので、絶対に受け入れたくないという反応になる。

そこで、今回の改革案を見てみると、全中の監査権限はなくすので監査部門は単純に廃止されるのかと思ったらそうではない。この監査部門は独立させて新しい監査法人に衣替えする。地域農協は、この新しく設立される監査法人に監査を依頼するか、一般の監査法人に監査を依頼するかを選択できることになる。

普通に考えると、全中から切り離される監査法人は、一般の監査法人との激しい競争にさらされ、場合によっては、今行っている事業が大幅に縮小してしまうかもしれない。しかし、実は、そうはならない構造的な保証がある。

全中の監査法人は、今までの地域農協との馴れ合い関係を武器に、これまでどおりの甘い監査を売り物にして地域農協の監査業務を受託することができるのだ。

地域農協にとって、これまでの貸し借りがない一般の監査法人に監査を任せるのは非常に大きなリスクを感じるだろう。全中から移行した監査法人なら、過去の不適切経理があっても、言わば、共犯者だから、時間をかけてうまく処理してもらえるという期待感がある。したがって、地域農協は今回の改革以降も全中から独立した監査法人を多少料金が高くても使い続けることになるのだ。

一方、全中としては、監査部門を切り離しても、従来どおりの甘い監査を続けていけば、地域農協はついて来てくれるという読みが成り立つので、ここは矛を収めたということだ。しかも、実施は19年3月末というから、まだまだ先の話。安倍政権が続いているかどうかもわからない。郵政民営化や政府系金融機関の民営化も小泉内閣の時に決まったものの、その後、どんどん後退している。農協改革もまだまだ巻き返しの余地ありと考えているのかもしれない。

いずれにしても、監査の分野では、大きな変化は期待できないということになる。・・・(以下略)

古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」Vol.118
(2015年2月13日配信)より

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