ISIL(いわゆるイスラム国)身代金要求と安倍首相<前編>
古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン Vol.117より

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安倍首相批判は許されない!?

古賀: そして今日のメルマガのテーマ、いくつかあるんですけれども、本日、(1月)22日、木曜日でして、今、日本で話題になっているのは何と言ってもISIL(いわゆるイスラム国)に2人の日本人が人質にとられて、2億ドルという巨額の身代金要求の動画が流れた。

そしてその期限が日本政府によれば明日23日、金曜日の午後2時50分ごろということで、刻々とそのタイムリミットが迫っているという状況です。したがって明日、配信されるときにはこのタイムリミットを過ぎて、本当に彼らが予告したような悲惨なことが起きているのか、あるいはその前に何か、解決策が見つかって、そういうことが起きないということになるのか、あるいは過ぎたんだけど、何が起きているのかわからないというような状況になる可能性もかなり高いと思いますけれども、そんなようないろんな可能性があるという中での今日のメルマガの収録ということです。

ですからあんまりいろんな確たることは申し上げられないんですが、こういう問題が起きたときに、世の中ではよくこういうときこそ国民は一致団結しなければいけない。逆に言うと、安倍さんが一生懸命がんばるんだから安倍さんないし安倍政権として、政府として、がんばっているんだから、それをみんなでサポートはするのはいいけれども、決して批判をするようなことをしてはいけないというような雰囲気が出てくるんです。

もちろん一般論としては本当に2人の日本人の尊い人命がかかった話ですし、そういうものを軽々に扱うというのはもちろん慎むべきだと思いますけれども、そういうことをわかった上で、あるいは相手はテロリストで、だれが何と言ったって彼らの行動は正当化できない憎むべき行為であるということも重々わかった上で、これから安倍さんが何をするかっていうことについては、われわれはもう安倍さんにがんばってもらうしかないんですが、すでに安倍さんがしてしまったことについて、どう考えるのかというのは考えていいと思うんです。

今回のテロ事件というのは相手はISILということで、思想的背景がどうかとか、宗教的背景がどうかというのはいろんな議論はあるけれども、やっぱりやっていること、これはもう、だれが見ても許せないわけですね。

はっきり言って、もちろん今の近代西側の倫理観あるいは民主的な価値観というものから見れば、まったく彼らがやっていることは肯定できない話ですけど、それだけじゃなくて普通のイスラム社会の人たちから見ても彼らがやっていることは決してイスラムの教えでも何でもない。単なる野蛮主義だというふうにいわれているように、世界中のルールから見て、やっぱりはるかに逸脱した、本当に簡単な言葉で片付けてしまえば暴力団にやられちゃったみたいな、それくらいの否定すべきものだというふうには思うんです。

ですから安倍さんがいるからあの事件が起きたというのは、もちろんちょっと言い過ぎだと思うんですけど、問題は去年の秋の時点で、湯川さんはもっと前から捕まってたわけですけれども、後藤健二さんという、これはもうテレビでも何回も報道されていますように非常に人道主義的な立場から自分の危険を顧みず、戦場の非常にそこの犠牲になっている弱い人たちの立場に立った報道を世界に伝えようという素晴らしい考え方を持って取材を続けていた方がISILに囚われの身になった。年末から年明けにかけてISILと思われるところからメールでいろんな連絡が家族のところに入っていたと。このことは日本政府も認識していたわけですね。

外務省は止めなかったのか?

古賀: そういう中での今回の安倍さんの中東歴訪というものが行われたということです。中東訪問をするときに自分が何を言うか、何をするかということを判断するにあたっては当然、2人の尊い命というのを守らなくちゃいけないという制約の中で考えているはずなんですね。そうしたことを考えた結果の安倍さんの行動はわれわれから客観的に見えるところによれば、いろんな国に行って二言目には「テロとの戦い」と。

「テロとの戦い」というところまでは僕はこれは言わざるを得ない話だと思うし、それは正しい話だし、それからテロ一般ということであれば、それほどISILを刺激しなかったかもしれないんですけれども、安倍さんは「イスラム国」という名前を出して、そういうテロとの戦いにわれわれは一生懸命協力していくんだ。最大限できることをしていくんですというようなことを言ってしまった。

安倍さんのこの発言とともに、どういう映像が切り取られて流れているかというと、イスラエルの国旗がななめ後ろに掲げられる中、安倍さんが胸を張って、テロとは戦うんだというようなことを言っている。イスラム国はわれわれの敵なんだ。あいつらと戦ってるんだというふうにとられるような編集で流れるわけです。

当然のことながら日本政府はISILがどうやって世界中に自分たちのことを宣伝して、どうやって若者を引きつけてリクルートしているのかというようなことはさんざんもう情報を持っているはずなので、安倍さんの言動っていうのはそういうことに悪用されるんじゃないかというようなことももちろん考えた上でやってると思うんですね。

外務省の中では聞くところによると、いろんな議論があって、今回、フランスであんなテロがあった直後で、なんとなく今、功名争いみたいな、イスラムの過激派の中でリクルートしたり、金を集めてくる上で、自分たちのほうが偉いんだぞという地位を得るために宣伝合戦が始まっている。というところで安倍さんがそこに行くっていうのは、何か、いやな感じだねというような話はけっこうされていた。

安倍さんの発言っていうのは基本的に官邸で仕切るというふうになっているので、外務省がいろいろチェックして「安倍さん、危ないからこんなこと、やめてください」なんて、今、そんなことを言ったって、安倍さんの側から、お前×(バツ)っていうふうにつけられるだけですから、(外務省から)そんなことも言わないと思います。が、結果的にそこをうまく利用されて2億ドルという巨額の身代金要求になってしまった。

今までああいう映像が流れていたんですけど金を出せっていうことと直接リンクした流し方っていうのはされてないんで、今回は非常に特異なケースですね。それはやっぱり金のためにやってるんだっていうふうに思われちゃ、いやだっていうのがあるわけです、イスラムの側としては。一方で、でもお金はほしい。特に最近、原油価格が非常に下がってきて、彼らの重要な資金源である、いろんな石油施設を占拠して、そこからとれた石油を密売してるっていうのはかなり大きな収入源ではあるんですけれども、そういうことで、それが安くなっちゃったから困っているという。

そこに降って湧いたのが安倍さんの中東訪問で2億ドルという数字。「1億プラス1億」とか言っていましたけど2億ドルという数字が出てきて、これはいい。要するに日本人っていうのはISILに対立するグループが戦争しやすいように、そいつらを助けるために2億ドル出したんだというふうに、人道支援ではあるんですけど、そういうふうに勝手に解釈して日本は敵だということで、そういう敵を脅してるんだから、それは正当な行為だということで宣伝をしているわけですね。

これはいろんな意味合いで私は問題だなと思ったのはさっき言ったとおりで、安倍さんはいろんなことをわかった上で、つまり最終的には2人の日本人の命という大事な価値と、それからもう1つ、天秤にかけたもう1つの価値というのがあって、それは安倍さんの正義、そして安倍さんの世界における立場。結局、アメリカと私は一緒なんですよと。あるいはイギリスやフランスも含めた有志連合軍で自分は空幕はできないんだけれども、それと同じぐらい、みなさんと一緒ですよという名誉ある地位っていうかね、安倍さんから見ればですよ。要するにお前、何もできないんじゃないの。腰抜けじゃないのっていうふうに思われたくない。自分たちも最大限がんばってるよという名誉ある地位を占めるという、その価値ですね。

それを天秤にかけて、2人の命っていうのは、この人たちは勝手に出かけていっちゃったわけだし、そういう人たちの命に危機が及ぶかもしれないというリスクを冒してでも自分の価値を優先したということだと思うんですよ。もちろんそれはそんなきれいごとでは済まない世界で、国際社会って、こんな戦争みたいなことになってるんだから、そんな尊い人命なんて言ってる場合じゃないとかいう人たちも、特にネット右翼の人たちはそういうことを言っているんですけれども、そういう判断をしたということですよ。だからそれについてわれわれ日本人はどう考えるのかというのが問われているんですね。

・・・以下<後編につづく>

(※2015年1月22日・動画収録)

古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジンVol.117
(2015年2月6日配信)より