【内閣府 その7】 福島の未来~「イノベーション・コーストふたば市」構想の実現を!
〔PHOTO〕gettyimages

2011年3月、福島は人類史上最も過酷な原発事故を経験した。この福島の復興はわれわれ日本人にとっての悲願だ。復興にはビジョンが必要だ。100の行動では、福島復興の思い切った明るいビジョンを描きたい。それが、福島県沿岸部を"イノベーション・コースト"へと変身させる「ふたば市」構想だ。

先行事例がある。ワシントン州シアトル市から南東350キロメートルに位置するハンフォード・サイトは、原爆開発のマンハッタン計画でプルトニウムの精製がおこなわれた施設で、その後の冷戦期もプルトニウム精製が続けられた結果、全米で最も放射能汚染がひどい地域と言われてきた。

1980年代にこのハンフォード周辺の除染と廃炉作業が始まった。原子炉の停止で1万人単位の急激な解雇が生じ、一時はゴーストタウンになりかけていたが、アメリカ連邦政府は同地域を廃炉と除染の中心地域にしようと方針転換したのだ。まず、原子炉の運転停止に伴って、それまで原子力の研究機関だった同地にあるパシフィック・ノースウェスト国立研究所を、廃炉と原子力プラント周辺の環境浄化に関する研究機関に移行した。政府はハンフォード周辺の廃炉、除染関連に年間20億ドルという巨額予算を充てた。

その結果、同国立研究所の研究は波及効果を生み、エネルギー・環境・医療・防衛等のさまざまな分野に研究領域を拡大。それに伴って地域に研究機関・企業の集積が進んでいったのだ。たとえば、ワシントン州立大学。もともとはハンフォード・サイトのコントラクターの1つであったGEがハンフォード・サイトにおける研究や従業員の研修のためにつくった機関が母体となっている。廃炉や環境除染の研究は、今や原子力とは直接関係のない新たな産業の発展につながり、これまでに150を超えるベンチャー企業がハンフォード・サイトの廃炉・除染プロジェクト関連から生まれ、全米で最も雇用上昇率の高い地域となっている。

ハンフォード・サイトの除染プロジェクトの完了は2047年と目され、今後も長期にわたる作業となる。一方でハンフォード・サイトは、放射能汚染と廃炉という困難な事業を逆に地域の成長につなげることに成功している事例だといえよう。

今、戦後最大のチャレンジに直面しているのが、福島県の浜通りだ。筆者は、同じ常磐線沿線にある茨城県東海村、水戸市の出身だ。言葉のなまりもほぼ同じなので、福島県浜通りにはとても愛着がある。震災後に真っ先に入ったのも浜通りのいわき市だ。2011年4月12日に大規模な余震がある中、20km圏内にも入った。同日にKIBOWいわきを開催した。

浜通りの現況は、新たな飛躍をする最高のチャンスでもある。廃炉と除染を成長のチャンスへと変えるため、「イノベーション・コーストふたば市」構想を提唱したい。

1. 原子力廃炉に伴って生じる研究分野(放射性廃棄物処分・環境技術、エネルギー、放射線医療、ロボット)にフォーカスしたイノベーション・コーストを構築せよ!

福島県の沿岸部「浜通り」は、もともと東京電力の福島第一・第二原子力発電所の存在によって地域経済が成り立っていた地域だ。2011年の過酷な原子力災害によって、福島第一原発は廃炉とされ、周辺は帰宅困難地域と化してしまった。今も10万人以上の方々が避難されている。

2014年に国道6号線の通行が自由となり、住民の復帰が可能となってきたが、3年強に渡って人が立ち入らない状態が続いた地域には、なかなか住民が戻ってこないのが実情だ。

数年後に地域に戻るであろう人々も、その多くが高齢者である。原子力発電所が廃炉となってしまっては、地域経済の支柱がなくなり、地域が成り立っていかないことも心配される。

だが、史上最も過酷な原子力事故を経験した地域だからこそ、世界の原子力安全研究の中心地・メッカとなり得るのではないか。世界的にも"Fukushima"と言えば、多くの人が知る地名となっている。

最大のチャレンジを最大のチャンスに変えるために、福島県浜通り全体を、原子力廃炉に伴って生じるさまざまな研究、すなわち、廃炉、放射性廃棄物処分、環境技術、放射線医療、ロボットといった分野の世界最先端の研究開発と教育地域とすることを提案したい。その研究開発から新技術と新産業が創出し、企業の集積が進み、雇用を生み出し、人が集まる、という好循環をつくるのだ。

(1)廃炉技術・放射性廃棄物処分・環境技術

事故炉の廃炉という人類史上稀に見るチャレンジを進めることになる福島第一原子力発電所は、廃炉技術、汚染水処理、放射性廃棄物処分、環境技術に関する世界最先端の研究機関へと転換させることが可能となる。

イノベーション・コーストの中心的な研究機関として、福島第一原子力発電所跡地に世界最先端の研究・試験施設を構築してはどうだろうか。この研究施設は、原子力安全高度化、汚染水処理や放射性廃棄物処分に関する利用価値の高いデータの提供が可能な研究施設とし、国際共同研究の受入れや国内外から研究人材を受け入れることができよう。加えて、放射性廃棄物の中間処分、さらにはいまだ場所すら決まっていない最終処分場としてこの研究機関を将来的に活用することも検討に値しよう。

また、原発事故以降、国内の大学の原子力関連学科が縮小傾向にある中で、原子力関連研究の新たなフロンティアとして、廃炉技術、汚染水処理、放射性廃棄物処分技術の研究分野を開拓し、人材を育成することも重要だ。廃炉は30~40年にわたる作業であり、そういった人材育成の拠点としてイノベーション・コーストを活用すれば、中長期的視点での研究者や技術者の人材確保が可能となるはずだ。

今後、否が応でも、原子力発電所の廃炉や放射性廃棄物処分の必要性は国内外で増加していく。課題先進国である日本がこの分野の世界最高の技術、人材を育成、確保するのだ。筆者も福島第一原発を視察したが、現在、数千人という人々が、廃炉、汚染水処理等で働いている。これらの作業と同時に研究を開始するのだ。今、仮住まいとなっている住居も、しっかりと定住できる体制にするのだ(この住環境は後述する)。こういった研究は、原発事故の教訓を前向きに踏まえて世界に貢献する道となるであろう。

(2)新たなエネルギー技術

われわれ日本人は、深刻な原子力事故を経験したからこそ、より安全な原子力技術と新たなエネルギー技術の開発を世界の先頭に立って進める必要がある。原子力研究の先には、新たなエネルギー源として水素技術や核融合といった、より安全性の高い技術がある。原子力関連研究をイノベーション・コーストにおいて一体として進めることで、世界最先端の技術開発をおこなうのだ。

また、楢葉町沿岸から約20km離れた海域で浮体式洋上風力発電設備「ふくしま未来」がすでに発送電を開始している。風力発電など再生可能エネルギーの研究開発もイノベーション・コーストにおいて一体的に進めたい。また浜通りは、東北では屈指の日照時間を有する地域でもある。太陽光等の研究にも適した立地である。

(3)放射線医療

2011年3月19日に、長崎大学医歯薬学総合研究科長である山下俊一氏が福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに就任され、3年強にわたり福島県に貢献された。山下氏は、現在長崎大学に復学されたが、今も福島県立医科大学副学長(現在非常勤)として、放射線医療の研究に従事されている。

こういった経験がある専門家を招聘して、低線量被曝の研究に力を入れるとともに、被曝医療を専門とする医師や看護師の育成に努めることが可能であろう。イノベーション・コーストを放射線医療の一大拠点として位置付けるのだ。世界から研究者を集めることも可能であろう。

放射性物質の分析関連の技術は、将来的には希少金属のリサイクルやがん治療薬の開発など、さまざまな分野に発展の可能性がある。こういった研究は、地域における新たな産業を創出するための基盤と成り得るであろう。

(4)ロボット

必要は発明の母だが、廃炉作業でもっとも必要となるのが高度なロボット技術だ。福島第一原発の廃炉作業では、原子炉建屋内の放射線量が非常に高く、人が入って作業することができない場所が多くある。そのために、原子炉内部の状況確認やがれきの撤去などにロボット技術が活用されている。

今後30~40年にわたる福島第一原発の廃炉作業では、より高度で実践的なロボット技術の研究開発が必要不可欠になる。ロボット技術は、構造、機構、材料、エネルギー、動力、制御、知能、センサー、通信、空間認知などの最先端要素技術とシステム技術で構成されており、このロボット研究開発に伴って生まれる技術や部材は、廃炉以外の先端課題の解決においても活用できるポテンシャルを秘めているし、その技術や人材は新産業の牽引役となろう。

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