【サメ辞典2:ラブカ】生きている化石ザメ、ラブカはいつからサクラエビの美味しさを知っている?
筆者とラブカ

そこは静岡県中部に位置する由比という街。東海道線からは「日本一の桜えびのまち由比へようこそ」という大きな文字と、大きなサクラエビのモニュメントが見える。そして、駿河湾を望む美しい富士が印象的な漁師町だ。

日本人に馴染みの深いサクラエビは深海生物の一種。4cm~5cmほどの小型のエビで、日本では駿河湾においてのみ漁獲対象とされている。サクラエビのかき揚げ丼を目当てにこの場所を訪れる人も多く、漁期(4~6月、10~12月)になると、生や軽く塩ゆでした釜揚げなど、サクラエビの注文が殺到する。

しかしながら、サクラエビの美味しさを知っているのは、わたしたち人間だけではない。

「生きている化石ザメ」と呼ばれる由来

サクラエビは日中は深海におり、好物のプランクトンを捕食するために夜には表層近くまで浮上する日周鉛直運動を行う。夜中になると深海から表層へサクラエビを追いかけて、ともに浮上するサメがいるという。また、サクラエビを対象とした漁や刺し網などにも迷い込んでしまうサメもいる。

2014年11月13日、駿河湾奥部の海域で大変珍しいサメが2匹同時に水揚げされた。たまたま、刺し網にかかったという。元気に生きていたら海に返してあげることが一番良いと思うのだが、残念ながら漁獲時に死亡してしまったらしい。

その珍しいサメの名は「ラブカ」。頭部の付け根にある鰓孔がフリルのように特徴的なことから、英名では「frilled shark」と大変愛らしい名が付けられている。今回は幸運なことに特別に譲って頂けることになった。そこで、まずは、大きさや特徴がありのまま残る魚拓をとることにした。真っ白いインクをラブカの右半身にぬり、直接法という手法で真っ黒な布にその姿を写しとる。サメらしからぬウナギのように細長い身体つきがとても印象的で、ラブカの特徴でもある側線がきれいに写し出された。出来上がった作品はなんだかホラーを感じさせるような異質な存在感が放たれていた。

ラブカの魚拓

また、メディアなどでは現存している古代生物として扱われることもしばしばあるので、「生きている化石ザメ」といった方がピンとくる人も多いのかもしれない。

なぜ、化石と言われているのか。それは彼らの歯の形に由来する。サメの歯というと、映画「ジョーズ」の影響からか、ホホジロザメ特有の二等辺三角形を思い浮かべがちだ。

しかし、サメの種類によってその歯の形は様々。ラブカの一本一本の歯には白い針状の3つの突起があり、鳥の足のようにも見える繊細な形状を有している。このような三つ又の歯や特有の歯列を持つのは、現世のサメではラブカの仲間以外にはいない。

ラブカの歯列。一本が三つ又にわかれている

そして、3億7千万年前の地層から見つかった、既に絶滅しているクラドセラケ(Cladoselache)の歯の特徴と類似していたため、ラブカはまるで生きている化石だといわれているのだ(※古生代中頃にいたクラドセラケと現世のラブカが直系であるかは定かではない。ラブカの化石は8千万年前から出土している)。

日本のサクラエビ漁が始まったのは1894年(明治27年)。ラブカがサクラエビを好んで食べているとしたら、きっと私たち人間よりも遥か遥か昔から、サクラエビの美味しさを知っていた生物だといえよう。

ラブカは2015年1月27日付けのナショナルジオグラフィック日本版(http://nationalgeographic.jp/nng/article/20150126/433157/
)でも話題になった。

サメのなかま』(山口敦子 監訳・朝倉書店)によれば、ラブカの大きさは、完全に成熟したメスで2m以下、オスは約1.5mに、幼魚の出生サイズは最大61cm。生息場所は1280mまでの深海だが、120mより浅い海域にも出現する可能性があるという。また、『生物の科学 遺伝 vol.62 no.3 軟骨魚類のふしぎ』(エヌ・ティー・エス)によれば、ラブカは古生代型の軟骨魚類の特徴を残す依存種であり、他のサメと違って口が頭の前方に開口し、鰓孔6対、脊索が永存するなど原始的な特徴をもつという。

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