I am KenjiとI am not Abe

『週刊現代』官々愕々

ISISグループによる後藤健二さんと湯川遥菜さんの殺害を非難ためにキャンドルをともすヨルダンの人たち(ヨルダン・日本大使館前))---〔PHOTO〕gettyimages

安倍晋三総理が中東歴訪中の1月20日、二人の日本人がイスラム国の人質になり、水面下での交渉が行われていたことがわかった。突然の話だと思ったが、昨年11月には、後藤健二さんの妻宛にイスラム国と見られる犯人側からメールが届き、外務省も把握していたことが明らかにされた。それを聞いて、元官僚の私はひどく驚いた。

外務省の官僚がその事実を知れば、それは省内では大臣まで、官邸にもほぼリアルタイムで報告され、直ちに安倍総理や菅義偉官房長官の知るところとなる。官僚はリスクを嫌う。重要な情報の伝達を遅らせて何かあったら大変だから、上司に報告して自分の責任を免れるのである。

つまり、安倍総理は、後藤さんらの身に危険が迫っていることを知った上で、中東に行った。そもそも普通の官僚なら、中東に行く前に官房機密費などで人質を解放してもらおうと考える。しかし、官邸はこの案を蹴ったのだろう。

安倍総理には、米英などの超大国と肩を並べる有志国連合の主要メンバーとして認められたいという野望がある。身代金を払ってそれがバレれば、米英に対する裏切りとなって安倍総理の野望は潰える。安倍総理はそのリスク回避を優先した。人命第一というのはまったくのウソだ。

実は、もう一つのウソがある。安倍総理は、エジプトで、「ISILと闘う周辺各国に、総額2億ドル程度、支援をお約束します」と述べた。本来は人道支援であることを強調すべきなのに、逆にイスラム国と戦うための軍事的・政治的な支援であるかのように表現したのだ。官僚的には、不要な誤解を生む表現でNGだが、その姿勢は米英などの列強国には高く評価され、「テロに屈せず戦う安倍」というイメージまで広げることができた。安倍総理は大喜びだろう。

しかし、これは完全な二枚舌外交である。本来できないはずの軍事支援をあたかもやっているかのように見せかけている。

それだけではない。国民を裏切る行為でもある。日本国憲法に基づくこれまでの日本の外交努力は、70年かけて日本は戦争しない国だという「平和ブランド」を確立した。日本は、主要国の中で最も敵が少ない国のひとつという地位を獲得した。

一方、米英などの列強は敵が多い。安倍総理の言動によって、今、イスラム国だけでなく、イスラム諸国、さらには世界中に、米国の正義が日本の正義、日本は米国と一緒に戦争する国だというイメージが急速に広まり、米国の敵が日本の敵になる懸念が高まっている。

これは、日本国民全体を危険にさらす行為だ。後藤さんが解放されても解消されない。今後、世界中で日本人がテロリストに狙われるリスクは飛躍的に高まったのである。しかも安倍総理は、今回のようなケースに自衛隊を派遣するための法改正をしたいというような発言までしている。

一国の指導者に課された最大の責務は、国民を無用な戦争に巻き込まないこと。安倍総理はこれを完全に無視している。

日本国民の心を表すのは、むしろ後藤健二さんの行動だ。敵も味方もない。戦争などの犠牲者、特に女性と子どもたちの姿を世界に伝え、戦争を根絶しようという姿勢こそ、日本国憲法が求める道だ。安倍総理の軍事力による「積極的平和主義」とは対極にある真の平和主義。後藤さんの心を共有し、安倍総理の考えを否定する、「I am Kenji」、そして「I am not Abe」という二つが日本人の命を守る一対の救いのフレーズなのである。

今号発行までに後藤さんの解放が実現していることを心から祈りたい。

『週刊現代』2015年2月14日号より

 

 

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