今、人類学がおもしろい! サルからヒトへ、そして現在もなお進化し続ける人類の謎

〔PHOTO〕gettyimages

ときどき、自分が違う職業を選べるとしたら、何になりたかったかと、夢のように考えることがある。私の場合、オペラ歌手か人類学者だ。オペラ歌手はさておき、人類学者のほうだが、人類学は幅が広い。

過去から現在までの人類についてのすべてが包含される学問なので、考古学も生物学も、そして、言語学も民俗学も関係してくる。私は、サルがヒトに変化していった過程とか、それよりもずっと後だけど現在よりはずっと前の、マンモスを狩っていたころの人間などに、とりわけ興味がある。

『日経サイエンス』の12月号の大特集「人類進化 今も続くドラマ」は、極め付きにおもしろかった。

第1部 直系祖先はだれだ? 気候変動のインパクト 進化を加速したハンマー
第2部 一夫一妻になったわけ 助け合いのパワー 生まれながらの協力上手
第3部 ネット化された霊長類 まだまだ続く進化

の3部構成となっている。

人類進化は一本ではなく、とても複雑に進んでいた

中学校のとき、人の一番古い祖先はアウストラロピテクスだと習った。教科書に載っていたアウストラロピテクスの絵はゴリラと人間のハーフのようで、怖いながらも楽しくて、ある先生にアウストラロピテクスというあだ名を付けた。だから、今でもこの原人の名前はスラスラと言える。

アウストラロピテクスのあと、初めてヒトといえるホモ・エレクトスが現れて、これがネアンデルタール人に進化し、それがさらに進化して、我々の直系の祖先であるホモ・サピエンスになるというのが、昔、習ったことだ。進化は一直線だった。

しかし、以来40年のあいだに、人類学は驚異的な進歩を遂げた。しかも、この10年ほどは、すごく価値のある新しい人類化石の発見が相次いでいるので、人類学は画期的なページを迎えているらしい。とくに一昨年、南アフリカで、初期人類の1集団全体の骨が埋まっている洞窟が発見され、人類学者たちは興奮している。

今では、どのヒト族が何百万年前に現れ、いつ絶滅したかのは、その骨が見つかった地層の年代を突き止めることによって、かなり正確に知ることができる。また、骨から回収されるDNAで、その骨の持ち主の素性も一目瞭然だ。これら遺伝情報のおかげで、いつごろ、どんな混血があったかということさえ、どんどん明らかになる。

その結果、混血していないと思われていたネアンデルタール人と、そのあとに出現したいろいろなヒト族のあいだに混血があったことがわかったし、我々の祖先であるホモ・サピエンスが故郷のアフリカを出て世界に拡散できたのは、長い脚と大きな脳のためだと言われていたのも間違いだとわかった。実は、脚や脳が進化するよりもずっと前に、ホモ・サピエンスはどのようにかして居住地を遠くまで広げていったのだった。

それと同時に、ネアンデルタール人は愚鈍で、ホモ・サピエンスが生まれながらにして優秀であったという定説も覆された。20世期の研究者たちは、自分たちの祖先であるホモ・サピエンスの能力を過大評価する傾向があり、ホモ・サピエンスはほかのヒト族をことごとく滅ぼし、3万年前には地球上唯一のヒトとなったと考えたが、実際は、ホモ・サピエンスも旧人類も最初はどっちもどっちで、しかも彼らは前述のように、互いに混血していたことさえわかった。

また、ヒト族は、その種類が思っていたよりも多く、彼らが同じ地域に併存していた時期が、過去に何度もあったこともわかった。そんなわけで、わかることが多くなって、かえってわからないことも増えた。人類の系統図は樹ではなく、ごちゃごちゃに入り組んだ茂みであったようだ。進化は一本ではなく、とても複雑に進んでいた。しかも、ホモ・サピエンス以外のヒトはすべて絶滅しているのだから、私たちがどのような進化を辿って、今ある姿になったのかということを突き止めるのは、とても難しくなってしまった。

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