【有料会員限定記事】人前でアガらずに話すノウハウ
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企業が成長するごとにスピーチの機会は増える

起業家にとってスピーチは日々の仕事において不可欠なスキルです。起業後、会社を成長させていくときには、投資家となりそうな人々にプレゼンしたり、決定的な瞬間に従業員を鼓舞したり、会社を代表してメディアに向き合ったりすることになります。起業家としてずっとやっていくつもりなら、マイクを手にしてグループや大勢の人を前にするときに今から備えたいと思うはずです。

私は、スピーチとなると今でも嫌で嫌でたまりません。近頃はスピーチする機会も頻繁ですが、嫌いな点では、約50年まえの学生の頃に、大勢の前で話したときとほとんど変わっていません。

当時の学校が主催したスピーチコンテストでは、短いスピーチを暗記して仲間の前で発表させられました。発表の途中で口ごもるとゴングが鳴り、それで一巻の終わりでした。自分の順番が来ると、死ぬほどの恐怖を覚えながらクラスメイトの前に立たされることになります。耐えがたいその経験を思い出すだけで、今でも冷や汗が吹き出します。

緊張感のことはさておき、人前で話していい思いをしたことはその後もまったくありません。これはほかのことでも同じで、私の場合は一度やってみておもしろくなかったら、その後もずっと得意にはなりません。しかし長年のあいだに、スピーチのやり方に関しては度々反復練習してきました。それでもちょっと緊張する点ではいまも同じですが。

政界では、演説に優れていれば、見たところ平凡な候補でもかなり容易に当選できます。しかしビジネスの世界では、才能の有無が重要なほどには、人前で話すのがうまいということだけで人が雇われたり昇進したりという話をあまり聞きません。それでもやはり次々に成功し自社の階層が上がるにつれて、人前でのスピーチを頼まれる機会が増えることは避けられない現実です。

いいスピーチは女性のスカートの長さのようなもの

『かわうそ物語』などの著書がある作家のギャヴィン・マクスウェルが健在だった頃、スピーチに関してすごく役立つアドバイスを私にしてくれました。彼のテクニックを身につけるには練習が必要ですが、効果的です。

彼は、「大勢の前で話すことになったら、何百人もの聴衆の前にいる事実は無視して、その代わりに小人数を前にして気楽に話しているつもりになればいい。たとえば、自宅の食堂で、いっしょに食事をしながら友人に話している感じだ。陳腐に思うかもしれないけど、一度試してごらん」とアドバイスしてくれました。この巧妙なテクニックはその後確かに、私が自分自身に感じる不安をかなり取り除いてくれました。

私はウィンストン・チャーチルの大ファンです。彼は一般的には、歴史上もっとも偉大な雄弁家のひとりとされています。しかしチャーチルは、その地位を大いなる努力によって勝ちとったのです。彼は自伝の中で、自分は1分のスピーチについて平均1時間は準備をしたと書いています。

私も、それがいかに消耗することであろうと、チャーチルのように練習に次ぐ練習を徹底すれば、人前で話す恐怖は徐々にやわらいでくることを発見しました。夢の中でもスピーチのせりふが現れるようになれば、実際のスピーチは驚くほどなめらかになります。

チャーチルはこうも言っています。「いいスピーチというのは女性のスカートの長さのようなものだ。言いたいことを言うには十分の長さで、もっと知りたいと思わせる程度に短いこと」。このアドバイスを記憶に刻んでください。彼のような天才的な雄弁家でも、聴衆に25分以上の静聴は期待しなかったそうです。30分以上のプレゼンともなれば、どんな聴衆でも集中して聴いてはくれません。

マーク・トウェインはアーネスト・ヘミングウエイと並び私がもっとも好きなアメリカ人の作家ですが、チャーチルのように演説家としても有名で、スピーチにも一家言がありました。トウェインは、偉大な演説家になりたいなら、即席のスピーチにも巧みでなくてはならない、という広く行き渡った誤解を認識していました。1899年にロンドンのホワイトフライアーズ・クラブで彼のために催された晩餐会で、トウェインはこう語っています。「即席のスピーチというのは難しいものです。私の場合は、1週間前から準備し、話す内容を書き出し、暗記するのが常です」。

以前にも触れましたが、トウェインによるもうひとつの明晰なアドバイスは、私の不安感を大いに取り除いてくれます。彼はかつて、「世界にはたった2種類の話し手しかいない。まずアガる人、そして嘘つき」と語っています。もしあなたがアガっているなら、それはどんな偉い人でも同じだ、ということなのです。

何年も現場で実践した後でも、最上かつ熟練の雄弁家にしてなお緊張はします。ですからスピーチに恐れを抱いたとしても、それで悩むことなどありません。ちょっとどきどきするぐらいで、アドレナリンが出て集中力が増し、メンタル的には鋭くなるものです。少なくとも理論的にはそういういうことです。幸運を祈ります。

December 23 2014
(翻訳:オフィス松村)

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