美術・建築
漫画家・安野モヨコの原画、ホノルル美術館へ ~作品の新たな「文脈」を求めて
© Moyoco Anno / Cork Inc.

キュレーターたちが綴るストーリーの一幕として

柔らかな島の風に包まれたホノルル美術館の中庭を、同館の日本美術キュレーター、スティーブン・サレル氏と散歩しながら、私はふと、体が軽くなるのを感じた。

昨年11月から始まったホノルル美術館の展覧会「Modern Love: 20th Century Japanese Erotic Art (モダンラブ: 20世紀日本のエロティックアート展)」に、漫画家・安野モヨコの原画を展示できないかと、サレル氏から打診を受けたのが昨年の初旬。安野モヨコのエージェントとして喜ばしいことだが、それ以上に、学生時代に美術史の研究に没頭した私にとって、個人的にも、興味深い話だった。

小説家や漫画家のマネージメントを行うベンチャー企業「コルクの共同経営を始めて以来、私は、漫画家の作品が、いわゆる現代アートとして、アート市場、そして美術史のなかで評価される流れをつくりたいと考えていた。漠然とした思惑だったが、幸いにもサレル氏と巡り会い、一年にわたって氏と対話するなかで、それは夢物語ではなくなっていった。

そしてついに訪れたホノルル美術館で、サレル氏と、共同キュレーターのショーン・アイクマン氏が手がけた展示を鑑賞していると、一種の安堵感に見舞われた。それは、東京から搬送した安野モヨコの作品が、良い意味で、「乱暴」に扱われていたからだ。

誤解のないように書き添えると、ホノルル美術館が、安野モヨコをはじめ展覧会に参加するすべての美術家に対して、深い敬意を抱いていることに疑いの余地はない。搬出準備の際には、美術品保護の専門家が一枚ずつ保管状態を検証し、最適な移送方法を丁寧に吟味してくれた。ギャラリーでの額装も、派手ではないが品がよく、なによりも、美術家たちへのキュレーターの思い入れが、会話の節々から伝わってくる。そのような相手でなければ、大切な作品を貸与できなかったのは言うまでもない。

ではなぜ、良い意味で扱いが「乱暴」なのかといえば、この展示の主役が安野モヨコではなく、ほかの美術家でもないことが、明確に見て取れたからだ。「モダンラブ」という展示は、あくまでもキュレーターであるアイクマンとサレル両氏の「作品」であり、そこで二人が物語るストーリーの一幕として、個々の美術家の作品が展示されている。そして、キュレーターたちが綴るこうしたストーリーこそが、やがては「美術史」を形成していくものにほかならないからだ。

ホノルル美術館のホームページより
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