【サメ辞典1:ミツクリザメ】「ゴブリン・シャーク(悪魔のサメ)」と呼ばれるその由来を検証! サメも見た目が9割?

日本の、たとえば東京湾は、伊勢湾、大阪湾に次ぐ日本で3番目の面積を持つ大型の湾のひとつだが、東京海底谷と呼ばれる最も深い水深は650mを越える。その、3000万人の人間が棲む首都・東京の間隣の、深い深い海の底には、悪魔と呼ばれる謎の生物が生息しているのをご存じだろうか。一枚の写真を見て欲しい。血まみれの形相、最大5mにも達する巨体、突出した顎にある驚くほど細長くて鋭い歯-------それらは映画プレデターに出てくるような地球外生命体を彷彿とさせる。

提供:Carl Moore NOAA

その生物の名前は「ゴブリン・シャーク」。直訳すると「悪魔のサメ」。その不吉な名前を聞くと、まるで映画ジョーズのように次々と人間を喰らう血みどろのサメが頭に浮かんでしまうが、かれらはそんな凶暴なサメなのだろうか。ゴブリンシャークとは、一体全体どんなサメなのか。

このサメは日本では「ミツクリザメ」と呼ばれる。この名前の由来は、有名な動物学者である箕作佳吉(みつくりかきち)先生のお名前だ。英名ではゴブリンシャークという恐ろしい名前で呼ばれているが、和名には由緒正しき名称がつけられている。

サメの特質をよくとらえた『ジョーズ』

SHARKS OF THE WORLD2005版(Leonard Compagno (著), Sarah L. Fowler (著), Marc Dando (著))によれば、生息水深は1300m以浅で、成熟全長はそれぞれ、オスは264cm、メスは335cm。平べったくて長い鼻っ面が特徴的で、餌生物を捕食するときの顎の使い方もユニークだ。

そのユニークな顎を説明するために、まずはサメの頭部と顎の話をしたい。

提供:シャークボーンアーティス小林龍一

スティーブン・スピルバーグ監督の出世作となった『ジョーズ』が大ヒットして以来、巨大なホホジロザメがB級ホラーの主役に抜擢されつづけたせいか、サメは凶暴、むやみやたらに人を食べるという故なき偏見の目でみられるようになって久しい。だが、この「ジョーズ」という映画タイトルは、秀逸というべきか、サメの特質をじつによくとらえているのだ。

そもそも「ジョーズ」は直訳するとサメという意味ではない(サメはsharkである)。Jaw(ジョー)は顎を意味しており、 Jaws(ジョーズ)とは上顎と下顎を指す複数形だ。

なぜ、このタイトルがサメの特質をじつによくとらえているかというと、それはサメの頭の構造にある。サメは、ほ乳類と違い、頭蓋骨と顎骨とが分離している(わたしたち人間を例にすれば、上顎は頭蓋骨の一部と化しているが、サメの場合は上顎も完全に頭蓋骨と分離している)。よって、ホホジロザメもヨシキリザメも、一般的なサメはエサを捕食する際には、口を大きく開けて少なからず顎を前方に突出させている。

提供:藤波裕樹

しかしながら、ミツクリザメはさらに巧妙な進化を遂げている。ミツクリザメの頭部を触って顎を引き出してみると、顎が前方に著しく突出する特有の構造になっていることがわかる。ふだんは、顎を突出させずに泳いでおり、ヘラのように突き出た鼻っ面の先で、餌生物の微弱な電気を感じ取り、驚くほど顎を突出させて一瞬のうちに索餌する。 顎を突出できることが特徴のサメであっても、ミツクリザメほど大きく顎を突出させるサメはそうそういない。ミツクリザメがこのような特徴的な顎構造に進化した理由としては、かれらが生息する深海底にヒントがありそうだ。ゆったりと泳ぎながら、見つけた獲物にゆっくりを近づき、より遠くのものでも噛み付けるように進化したのではあるまいか。餌生物が少ない深海ではできるだけエネルギーを使うことなく、見つけた獲物を確実に捕食することが生き残りを左右するのだ。

また、これは数少ないミツクリザメを獲ったことのある漁師関係者に聞いた話だが、ミツクリザメが漁獲されるときは一度に様々な大きさのミツクリザメが複数匹獲れることが多いという。これはかれらが何らかの目的で群れを作っている可能性があるということではないか。小さなミツクリザメと成熟した大人のミツクリザメが同じ群れに存在していたとしたら、その目的はいったい何なのだろうか。

漁獲数も少なく、長期飼育もまだ成功していないミツクリザメの生態は、いまだ謎が多い。

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