中国
改革派の象徴的人物・趙紫陽総書記の死去10周年を機に考える「社会主義市場経済の限界」
1989年5月、学生たちと話をする趙紫陽元総書記 〔PHOTO〕gettyimages

先週は、イスラム国に拘束された日本人の人質問題に揺れた一週間だった。先週末の湯川遥菜さんの残酷な殺害、そしてその写真を持たせた後藤健二さんの映像は衝撃的だった。日本がイスラム圏での紛争に、決して他人事ではないことをまざまざと見せつけられた。後藤さんの一刻も早い救出を願うばかりである。

「民主政治を行わないと腐敗はなくならない」

イスラム国報道にすっかり隠れてしまったが、先週は中国でも、興味深い動きがあった。

1月17日、趙紫陽元総書記の死去10周年を迎えた。趙紫陽総書記は、1989年6月4日の天安門事件の際に、民主化を要求する学生の側に立ったとして、鄧小平ら長老の怒りを買い、中国共産党トップの総書記を解任された。以後2005年1月に死去するまで、生涯にわたって軟禁生活を余儀なくされた。中国にとっては、いわば「改革派の象徴的人物」である。

私は死去10周年を機に、『趙紫陽極秘回想録』(2010年1月、光文社刊)を改めて読み直してみた。この極秘回想録は、趙紫陽が死去する前に、軟禁されている北京の自宅で密かに録音し、そのテープを孫のオモチャに混ぜて外に出したという「遺訓」だ。

極秘回想録には、1980年代に「中南海」の主人たちが、ほぼすべて保守派で占められている中で、趙紫陽が孤軍奮闘する姿が、生々しく描かれている。そして1980年代に中国で起こっていた問題が、現在もそのまま継続していることを思い知らされる。

一例を挙げれば、腐敗の問題である。現在の習近平政権は、周知のように非常に厳格な腐敗撲滅運動を展開している。この腐敗撲滅ということに関して、趙紫陽は回想録で次のように言及している。

〈 腐敗と闘うためには、政治体制の改革を実行しなければならない。新興国では、発展の初期に、腐敗が蔓延する時期がある。経済が急速に成長するいっぽうで、一部の者に政治権力が高度に集中する。役人の行動は世論によって監視されない。政府与党の監督がないと、役人はすぐに腐敗する。

民主政治を確立し、政治を多元化し、より多くの民衆をその過程に関与させ、世論によって権力を監視することで、最終的には状況はよくなるだろう。一部のASEAN諸国や台湾がそうだった。経済基盤が変化するときには、政治制度にも改革が必要なのだ。 〉(同書P255より)

趙紫陽は、「民主政治を行わないと腐敗はなくならない」と喝破しているのである。まさに現在の習近平政権に聞いてもらいたい箴言である。中南海の政治指導者にも、このような英明な卓見を持った人物がいたことを、改めて思い知る。

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