『エネルギーとはなにか』
そのエッセンスがゼロからわかる
ロジャー・G・ニュートン=著 東辻千枝子=訳

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どこから生まれ、どのような法則にしたがうのか?
本質が一気につかめる「超」入門書!

 宇宙誕生初期に生まれた「純粋なエネルギー」は、どのような変遷を経て、私たちの生活に不可欠な存在になったのか? 防寒や調理に役立つ「熱」の探究からはじまった「エネルギーの科学」。電気や化学結合から生じるエネルギーの制御が、物理学と工学に繁栄をもたらした。太陽を輝かせる核エネルギーや、不連続な量子エネルギーの謎から、電池や液体水素による備蓄や輸送のしくみまで、現代科学の最重要キーワードが1時間で理解できる!


はじめに

したがって、ある系のエネルギーとは、ひと言でいえば、
外部に対して影響を及ぼす能力である。
                                      マックス・プランク『熱力学』

 現代の西洋文明の世界―いわゆる先進国は、そのほかの地域と、たとえば、財産権の完全な保障や司法制度の独立、資本主義経済システムや輸送手段の効率のよさなど、さまざまな点で異なっています。

 しかし、200年あまり前の産業革命以降、西洋文明が達成した何よりも重要なことは、人や動物の労役を、機械エネルギーによって置き換えることでした。ナポレオンの馬がヒトラーの戦車と置き換わっても、やはりロシアでは敗北に終わったように、兵士の武力や動物の力が機械化された兵器や輸送手段と交代したところで、必ずしも戦争の結果を変えることにはなりませんでしたが、一方で、戦死者は激増しました。

 紀元前216年のローマ軍に対するハンニバルの勝利は、白兵戦としては歴史上、一日の戦闘における犠牲者が最も多かった戦いだといわれています。しかし、第一次世界大戦におけるソンムやパッシェンデールの戦い、第二次世界大戦でのスターリングラードや沖縄の戦いは、それとは比較にならないほどの膨大な数の戦死者・戦傷者を出しました。広島と長崎に対する原子爆弾投下にいたっては、いうまでもありません。

 他方、平時においては、機械化によって多くのことが改善されました。機械のエネルギーは都市の日常生活はもちろん、工業や農業でも力を発揮し、耕す機械、種を蒔く機械、収穫する機械などが、人や牛、馬に取って代わりました。洗濯機、食器洗浄機、乾燥機、掃除機などによって、私たちはわずらわしい家事労働から解放され、オートメーションによって骨の折れる工場労働の多くが軽減されました。

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 人類は、どのようにしてエネルギーについての理解を深め、そのような発展を可能にしたのでしょうか? また、エネルギーの〝源〟は何でしょうか?

 もちろん、エネルギーの獲得手段(あるいは「手段がない」ということ)をめぐっては、多くの政治的・経済的な課題が存在しています。たとえば、巨大な石油資源が他にほとんど収入源のない社会に与える、短期的には有効でも長期的には好ましくないと推測される影響、あるいは、必要なエネルギーを得るための手段の格差が国家間の力関係に及ぼす多大な影響といった問題です。

 さらには、発電用の原子炉が抱える危険性、その使用によって発生する放射性廃棄物の処分の問題、石炭採掘による地球環境の破壊といった工学的、あるいは社会的、政治的な重要課題も無視することはできません。

 このような問題の根本を明らかにするためには、エネルギーに関する科学の基礎を理解することが何よりも重要であり、本書の目的はそこにあります。