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2015年01月21日(水)

『算法勝負! 「江戸の数学」に挑戦』
どこまで解ける? 「算額」28題
山根誠司=著

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江戸時代の公開数学問題「算額」で
和算の粋を楽しむ

 数学の問いを神社仏閣に掲げ、公開の場で算法勝負をする「算額」。大名から庶民まで、身分の上下を超え、当時の数学ファンがこぞって熱中したオリジナリティ溢れる和算問題の数々、現代人のあなたはどこまで解ける?


はじめに

算額とは何か

 みなさんは,算額というものをご存知だろうか。主に江戸時代に,神社仏閣に奉納された数学の絵馬のことである。現在でも,日本の神社には小型の絵馬がかかっているが,江戸時代にはもっと大型のものに,数学の問題と答えを描いて奉納したのである。世界でも稀にみる習慣と言えるだろう。

 現在神社などに掲げられている絵馬は,小型のものが多い。おおよそ縦横10~20cm程度だ。算額はもっと大型だ。平均的なもので,縦90cm×横180cmほど。ざっと畳1枚分と考えてよい。算額は,神社仏閣の軒先に掲げることが多かった。建物の高い位置に目立つように取り付けられるため,そのくらいの大きさが必要だったわけだ。

 算額が掲げられた目的は,大きく分けて4つほどあったと考えられている。

○問題が解けたり,数学の腕が上がったことを神仏に感謝する。
○数学の研究発表の場として活用する。
○自分の流派の宣伝をする。
○慶事を記念して奉納する。

 いずれにしても,数学と神仏とを結びつけ,感謝の念を表するということでは共通しているのではないだろうか。受験数学が幅を利かせている昨今,じつに清々しい気持ちにさせられる。江戸時代にこうした習慣があったことは,良き伝統として語り継いでいきたい。

 実際の算額の形は横長の長方形のものが多いが,正方形・五角形・縦長の長方形・扇形などのバリエーションもある。人目につくことが目的とされたため,彩色を施すなど目立つデザインを意識していたようだ。勢い図形問題が多くなったのは,算額という性質上仕方がないだろう。その代わり,図形問題には凝ったものが数多く残されている。これが和算の特徴のひとつと言える。

 これらの問題は,現在の中学・高校の数学で解けるものが多い。ただし,中にはかなり高度なテクニックを必要とする難問も残されている。お互いに競うようにして,新しい問題を作っていったため,高度になっていったのである。

 当時世界最高レベルに達していた問題も作成された。球に関する定理を用いるソディーの六球連鎖の問題や,円に関する定理を用いるシュタイナー環の問題などがその例である。そこでは,ヨーロッパの最先端の数学に数十年先駆けた問題が扱われていた。ソディーの六球連鎖に至っては,西洋数学の定理として発表されたのが20世紀半ばのことだから,100年以上先駆けていたことになる。和算が世界に誇れることのひとつだ。

世界遺産と算額

 算額は身近なところに残っている。たとえば,世界遺産に登録されている神社仏閣がそうだ。

 人目につくことが大切だったため,算額は有名な社寺に掲げられることが多かった。いわゆる名所・旧跡などは,掲額するのにもってこいの場所だった。現在世界遺産に指定されている有名社寺にも,算額が残っている場合がある。そのいくつかを紹介したい。

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