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『21世紀の資本』ピケティ教授が提唱「金持ちの財産にもっと課税せよ」 もし日本で実現したら、を考える 原田泰×田中秀臣

日本の所得税は安すぎるか

田中 トマ・ピケティ氏は『21世紀の資本』の中で「資本主義の先進国では、格差の拡大が避けられない」と書いています。資産を運用して儲けている富裕層と、そうでない庶民との格差がどんどん広がってゆく。

原田「実は、昔からそうだった」とも言っていますね。20世紀後半だけが、格差が小さくなった特別な時代だったんだ、と。

田中 そうですね。戦前のヨーロッパでは凄まじい格差があったけれど、その後戦費調達のために金持ちに重税が課せられ、かなり是正された。日本では、敗戦で資本が破壊されたせいで、ある程度平等な社会になりました。

原田「資本主義経済が発展すれば格差は小さくなる」という見方が戦後の常識でしたが、それは「たまたま」で、21世紀は再び格差が広がってゆく一方だ、ということですね。その対策として、ピケティ氏は「金持ちに対する所得の累進課税を再び強化すべき」、そして「株式や不動産、相続税など、あらゆる資産で累進課税を導入または強化すべき」と唱えています。

田中 まず所得税率を見てみると、日本でも確かに最高税率はどんどん下がっていますよね。

原田 '80年代の初めまでは国税・地方税を合わせて最高で93%だったのが、'90年代には50%にまで下がりました。ちょうど今月から、所得額が4000万円以上の世帯の税率が55%に再び引き上げられたばかりです。

田中 私は、今の日本の税制はうまくいっていないと思うんです。例えば、母子家庭では課税による再分配の前よりも後のほうが、むしろ経済状況が悪化することが多いといいます。加えて、消費税増税が所得の低い層を直撃しました。貧しい人から取ったカネを公共事業に使ったり、公務員ばかりが元気な地方にばらまいたりしているわけです。

ですから、ピケティ氏の主張はある程度当たっていると思います。消費税を上げるより、高額所得者の税率を昔のような高水準、例えば60~70%まで戻したほうがいいのではないでしょうか。

原田 しかし、所得の累進課税を強化すると、労働意欲や起業意欲が衰えて、経済全体が委縮するかもしれません。

それに加えて、株式などの資産にも重税をかけるとなると、日本の金持ちは今以上に海外へ資産を移してしまうでしょう。ピケティ氏は「世界中で同じシステムを使って資産課税すれば逃げられない」と言いますが、実際にそのしくみを作るのはかなり難しい。