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グーグルやテスラに勝っているのか? トヨタ王国の10年後が日本経済の浮沈を握る
量産型FCV・MIRAIの発売で、2015年は「水素元年」となる?〔PHOTO〕gettyimages

売上高25兆円を誇る、日本のものづくりの「最後の砦」トヨタ—急速に変化する市場環境に同社がどう立ち向かうのかは、数万社に及ぶ下請け企業のみならず、日本経済の未来を占う重要な試金石だ。

135万人の雇用を守れるか

「トヨタはこれまで経済産業省と一緒になって、日本の製造業の雇用を守ってきました。しかし現在、自動車業界は大きな変革期にあります。

グーグルのようなIT企業が自動運転の分野で覇権を握ろうとしているのが一つ。そしてテスラのような新興メーカーが、画期的な電気自動車(EV)を開発しているという流れがもう一つです。トヨタをはじめとした自動車メーカーが開発に力を入れてきた内燃機関が、電気モーターに取って代わられ、消費者が自分で運転するというこだわりを捨ててしまえば、自動車の概念そのものが変わってくる。自動車産業の参入障壁がぐっと低くなり、旧来のメーカーの優位性は失われてしまうでしょう」

こう語るのは経済ジャーナリストの磯山友幸氏だ。

年間販売台数1000万台を超えるトヨタは言うまでもなく、日本を代表する優良企業だ。純利益は2兆円、時価総額は25兆円を超え、保有する現金は6兆円で日本の公共事業費をも上回る。また、今期は円安の影響もあり史上最高の営業利益3兆円が確実視される。

トヨタ自動車の従業員数は単独で約6万8000人。3万社以上あるといわれる下請け企業で働く人は135万人を超えると推計されており(帝国データバンク調べ)、その規模は一つの「経済国家」といっても過言ではない。

だが、そのトヨタですら、安穏としていたらあっという間に消滅しかねないのが、流れが速い今の時代の恐ろしいところだ。

そして、トヨタ王国が今後10年でどのような道をたどるかは、日本経済の浮き沈みにそのまま直結する。第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣氏の試算によると、日本の自動車産業がすべて海外へ移転した場合、300万人の雇用が失われ、失業率は3・6ポイント上昇し、GDPはなんと20%も減少するという。

系列会社を含めれば100万人超の雇用を生んでいるトヨタがくしゃみをすれば、日本経済全体が風邪をひく。万が一トヨタが重い病にでもかかった日には、日本が瀕死の状況に陥ることは間違いないだろう。

地域単位で見れば、さらに深刻な事態も生じうる。リーマンショックの影響でトヨタが業績不振に陥った'08年には、翌年度の愛知県の税収が2割も減った。トヨタのおひざ元の豊田市では、トヨタの業績によって税収が4~5倍に減ったり増えたりするので、安定的な予算を組むのに苦労しているほどだ。

これまでトヨタを頂点としたピラミッド構造は、同社の発展に大きく寄与してきた。技術力のある下請けは品質とコスト面で、トヨタにとってプラス材料だったし、トヨタが成長するに従って、下請けの裾野は広がってきた。政府はトヨタを国内に安定した雇用をもたらしてくれる優等生企業と考えており、トヨタもそれに応えてできるだけ国内の雇用を守ろうとしてきた。

だが、そんな夢のような「雇用の楽園」がいつまでも続くとは限らない。業界に大きな変化が訪れようとしているのだ。

変化の一つが冒頭でも触れた自動運転化と電気自動車の台頭だ。グーグルは自社が持つ地図データを基に自動運転技術を開発中で、車を通じてビッグデータを収集する近未来図を描いている。'12年に同社の自動運転部門はトヨタに対して、制御技術の提携を申し込んだが、トヨタの技術者たちが「安全に関する根幹的なシステムを握られかねない」として拒否したという。

車が一つのIT機器になってしまったら、その中枢にあるOSを握るグーグルが主導権を握り、トヨタが一下請けメーカーに成り下がってしまう可能性もあるのだ。これではOSを米国に握られて没落した国産PCメーカーの二の舞だ。

また、EVのような電気自動車が台頭することもトヨタにとっては好ましくない。旧来の内燃機関を作るには何千もの部品と複雑な製造工程が必要だった。しかし、EVの動力源となる電気モーターはわずか数十の部品で組み立てることも可能だ。もしEVが次世代の車のメインストリームになったとすれば、トヨタの技術的な優位性は一気に失われてしまうし、これまでトヨタの高度な要求に応えてきた下請けメーカーも仕事がなくなるだろう。

このような理由でトヨタは現在、EVの開発に積極的ではない。しかし時代の変化を、ただ手をこまねいて見ているだけではない。

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