メディア・マスコミ
第1回 トヨタ問題をリードしたLAタイムズの「調査報道」
日本の新聞が報じないリコール騒動の真実

 大規模リコール(回収・無償修理)問題でトヨタ自動車がなお逆風下に置かれている。4月5日には、アメリカ運輸省が「トヨタは意図的に欠陥を隠した」として、円換算で15億円以上の制裁金を課すと発表した。自動車メーカーへの制裁金としては過去最大だ。

 制裁金を払ってもトヨタ問題は収束しそうにない。というのも、「トヨタ車の『意図しない急加速』の原因は電子制御システムの欠陥にあるのではないか」という疑念が消えていないからだ。

 電子制御システムがクローズアップされたのは、2月下旬のアメリカ議会だった。トヨタの豊田章男社長が下院公聴会に自ら出席し、従来の「フロアマット・ペダル説」を唱えた。ところが、議員たちは「電子制御システム原因説」にこだわり、同社長を厳しく追及した。

 この公聴会について、日本では「なぜアメリカ議会はトヨタの言い分を素直に信じないのか」といった疑問も広がった。政治的な陰謀説に絡めて「トヨタたたき」を語る向きも増えた。

 アメリカにいると、議会がトヨタの主張を額面通りに受け入れず、電子制御システム原因説に固執した理由はよく分かる。コンピューターがエンジンの回転数を制御する「電子スロットル(ETC)」システム導入後に、トヨタ車で苦情や事故件数が急激に増えている――こんな報道が昨年秋の時点からアメリカをにぎわしていたからだ。

 トヨタ報道で圧倒的な強さを見せたのが、南カリフォルニアを本拠にする有力紙ロサンゼルス・タイムズ(LAタイムズ)。使った手法は、権力の発表をうのみにせずに独自取材で検証する「調査報道」だ。昨年8月に南カリフォルニアで起きたトヨタ車の暴走は、4人が死亡し、全国的な注目を集めた事故だけに、LAタイムズは「地元ニュース」として全力で追いかけたようだ。

 第1弾は、昨年10月18日付の記事だった。その数週間前にトヨタは事故の原因はフロアマットだとして、同社史上最大のリコール(約380万台)を発表した。これに対し、LAタイムズは独自調査を実施して1面トップ記事にしたのである。「トヨタの問題はフロアマットにとどまらない可能性がある」との見出しを掲げ、「フロアマットが原因」とするトヨタ側の説明に疑問を投げかけた。

公開情報を徹底分析してトヨタの発表に異議

 この記事の中でLAタイムズは、トヨタと高速道路交通安全局(NHTSA)へ報告された「トヨタ車急加速の事例」を数百件分析するとともに、専門家の意見も多数紹介。ミシガン大学の専門家の意見として「自動車メーカーはますます複雑な電子システムを導入しており、それがどのように機能しているのかうまく説明できなくなっている」と伝えている。すでに、この段階で電子制御システム問題をにおわせているのだ。

 第2弾は、同年11月8日付の1面トップ記事。ここでは「オーナーの苦情を無視する交通安全局」との見出しで、トヨタ車の急加速問題に対する当局の対応を批判した。その根拠にしたのが、トヨタ車に関連した(1)連邦政府による欠陥調査(2)NHTSAへ寄せられたオーナーの苦情(3)トヨタに対する集団訴訟(4)民間調査機関と警察による事故記録――など数千件に及ぶ資料だ。すべて公開情報である。

 同記事は次のような衝撃的なデータも紹介している。

「2002年式モデルの登場後、トヨタ車をめぐっては急加速の苦情件数が1000件以上に達し、急加速を原因にした死亡者数が少なくとも19人に上る。NHTSAによれば、同じ期間に急加速を原因にした死亡者数は、トヨタを除く全自動車メーカーを合計しても11件にすぎない」

 補足しておくと、トヨタ車では2002年式モデルで電子制御システムの導入が本格化し始めている。

 この記事は、LAタイムズの独自調査に基づく「スクープ」だ。これを日本の大新聞は追っかけた。翌日9日付の夕刊で朝日新聞が「急加速し暴走、米報告1000件超レクサス巡り報道」、産経新聞が「トヨタ車急加速で19人が死亡か」、日本経済新聞が「米トヨタ車、急加速1000件、19人死亡」と報じたのに続き、10日付朝刊で読売新聞が「レクサス『暴走』報告多数」と伝えた。

  いずれも独自に調査して追っかけたのではなく、LAタイムズの記事を「転電」しただけである。転電とは「LAタイムズの報道によると」などと他紙の報道を引用、紹介する記事だ。日本を代表するグローバル企業の問題でありながら、日本の大新聞がアメリカでは調査報道と無縁であったことをうかがわせる。ちなみに、日本経済新聞社は数年前にロサンゼルス支局を実質閉鎖している。

LAタイムスは独自の調査報道で事故の原因を追及した

  決定打になったのが同年11月29日付の第3弾だ。やはり1面トップ扱いであり、主見出しで「データが示すトヨタの急加速問題」、ワキ見出しで「トヨタはフロアマット原因説を唱えるが、電子制御システム移行後に急加速事例が急増」と伝えている。ここでもLAタイムズは数千件に上る公開情報を徹底的に分析している。以下、主なポイントを紹介しておこう。

・スチールケーブルの代わりにセンサーやマイクロチップでエンジン出力を制御するETCの導入が本格化した過去10年で、多くのトヨタ車とレクサス車で急加速の苦情が急増している。

・NHTSAにオーナーから寄せられた苦情を数千件調べると、ETC導入後に一部のトヨタ車で「意図しない急加速」の苦情件数が5倍以上に跳ね上がっている。

・トヨタは2002年式の「レクサスES」と「カムリ」にETCを初めて導入。2002―04年式の両モデルでは急加速の苦情が平均で年132件に達し、1999―01年式の年26件から急増している。

・トヨタのピックアップトラック「タコマ」では2005年にETCが導入され、その後3年間で急加速の苦情件数は平均で20倍以上に増えている。ハイブリッド車のプリウスでも同様の傾向が読み取れる。

 こんなデータを見せられれば、だれでも「電子制御システムに問題がないのか、徹底調査すべき」と思うだろう。世論の風向きを意識する議会であればなおさらだ。トヨタから「原因はフロアマット」と説明されても、「はい、そうですか」と納得するわけにはいかないのは明らかである。

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