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決定! 立派だった日本人 文化芸術界ベスト20人&学術界ベスト20人(1945年~2015年)——我々を励まし勇気づけてくれたのは、この人たちだった

文化・芸術ベスト10人
小津安二郎は?
手塚治虫、司馬遼太郎、そして宮崎駿

評者/鹿島茂×亀和田武

芸術家には狂気も必要

亀和田 手塚治虫をまず挙げたいですね。現在の「マンガ大国・日本」を作り上げた人物ですから。彼がすごいのは、いまも多くの人を楽しませる不朽の名作を描いたことに加え、単なる聖人君子でなかったこと。晩年になっても、有望な後輩が出てくると本気でライバル心を燃やすピュアなところがありました。

鹿島 あれだけの作品を残していたら、普通は若手の保護者的な立場になったりしそうなものだけど。

亀和田 ちょうど『AKIRA』の大友克洋が出てきたときに会ったことがあるんだけど、「亀和田君、僕も大友克洋のすごさ、新しさは認める。だが、本物かどうか確かめるために評価はあと3年待ちたい」と真剣に語っていた(笑)。

鹿島 影響力というのも大きな要素です。たとえば、司馬遼太郎。戦後、マルクス主義的な史観によって否定されていた日本的なものへの評価を、彼は作品を通じて修正していった。司馬史観に異を唱える人もいますが、戦後で「国民作家」といったら司馬しかいない。多くの人に支持されたのも、彼は「日本人とは何か」ということを徹底的に考えていたからでしょう。

亀和田 土方歳三や坂本龍馬の人物像も司馬作品によって、それまで読者が抱いていたイメージとは、がらりと変わりました。

鹿島 時代小説の分野では池波正太郎や藤沢周平もいますが、後世に与えた影響は司馬さんには及ばないでしょうね。藤沢さんは通好みだし、池波さんはインテリが書く時代小説の系譜に連なる、どちらかと言うと地味な作家ですから。

亀和田 三島由紀夫は評価が分かれるかもしれない。でも、作品や言動の好き嫌いはあるでしょうが、なにしろ大スターだった。

鹿島 小説家がスターであった時代のスーパースターですよ。たとえば村上春樹さんは、有名ではあるけれど、スターとはちょっと違うでしょう。

亀和田 三島は、東大闘争のときに単身東大に乗り込んで、何千人もの東大全共闘とそのシンパを相手にたった一人で討論したこともありましたね。

鹿島 僕はちょうど東大の学生だったから鮮明に覚えています。黒いポロシャツにサングラス姿で駒場にやってきたときは、強烈なオーラに圧倒されましたよ。

最期は市ヶ谷の自衛隊で割腹自殺をする。当時はよくわからなかったけど、いま彼の小説をじっくり読み返してみると、彼にはあれ以外の死に方はなかったのかもしれないと思う。