軍事予算は受けない、動物実験もしない---一部科学者が極度に倫理的な研究スタイルを追求
〔PHOTO〕Thinkstock

加速度的に発達する遺伝子工学や神経科学、そしてAI(人工知能)の暴走などが真顔で論じられるようになった昨今、それらを実際に研究開発する科学者の倫理観が改めて問われている。そうした中、最先端を行く一部の科学者たちがストイックなまでに倫理的な研究スタイルを模索し始めている。

●"Discovery, Guided by Morality" The New York Times, JAN. 5, 2015

上記NYT記事によれば、最近、一部の神経科学者たちが自らの研究成果が軍事転用されるのを恐れ、軍事予算を拒絶し始めたという。彼らは独自に開拓したルートから研究予算をねん出している。また神経科学(脳科学)の研究に不可欠な「動物実験」も非倫理的であるとして拒絶し、元々、癲癇など神経疾患の患者から(恐らくは治療目的で)採取された脳細胞などを使って、基礎研究のための実験を行っているという。

実験データは無条件で公開

こうした新しい世代の科学者たちはまた、研究の透明性にも心を砕いている。たとえば自分たちが実験で発見した現象や関連データなどを無条件で(恐らくはインターネット上で)公開し、必要とあれば最終結果が出るまでの途中経過さえ公開しているという。

彼らがここまでストイックな研究スタイルを追求する理由は、先端科学の悪用や暴走の可能性が今、かつてないほど現実味を帯び始めているからだという。たとえば冒頭の記事では、ある神経科学者夫妻の次のような証言を紹介している。

「今、多くの人たちがSF映画に出て来る悪夢のような世界を心配している。でも科学の現場に身を置いてみると、その実態はSFよりもずっと悪い」

〔PHOTO〕gettyimages

米国では昨年、人間の脳の全容を解明する「ブレイン・イニシアティブ」という政府主導の大型研究プロジェクトが開始された。今後10年間で総額30億ドル(約3,600億円)もの巨額予算をかける予定だ。この米国に先だって、欧州でもEU政府主導で「ヒューマン・ブレイン・プロジェクト」と呼ばれる巨大プロジェクトが2013年にスタートしている。日本でも欧米よりは研究予算が一桁小さいが、文部省主導で「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」が昨年始まった。

これらの研究プロジェクトでは脳機能の解明と共に、アルツハイマー病やパーキンソン病など重篤な神経疾患の治療法などを研究する。特に欧米のプロジェクトでは、これら脳科学の成果を使って、人間のように考える「本物のAI」を開発することも視野に入れている。

ところが冒頭のNYT記事によれば、特に米国のブレイン・イニシアティブには、そうした表向きの研究目的以外にも「人間の脳に人工的な記憶を後から焼き付ける」といった裏の目標が隠されているという。要するに政府が、一般国民あるいは自分たちに都合の悪い関係者らを、洗脳するための技術開発にも悪用される恐れがあるということだ。そう言われても俄かには信じ難いが、どんな基礎研究でも悪用や暴走の危険性があるということだけは間違いなかろう。

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