格差・貧困 社会保障・雇用・労働
シングルマザーはなぜ人に頼らない?【前編】養育費を支払っている前夫は5人に1人
森山 誉恵
Photo by Think stocks

少し間が空いてしまいましたが、前回の記事では、ギリギリのラインで子育てをしている家庭の現状について書かせていただきました。「ベビーホテル」や「水商売」が子育てのセーフティネットになっていることに衝撃を覚えた方も多いように感じました。

大学等でも講演させていただくことが増えてきたのですが、大学生、とりわけ女子大生は離婚してシングルマザーになったら70%の割合で貧困になる日本の現状に衝撃を覚え、大学生のうちからキャリアや結婚などに真剣な姿勢を見せたりもします。もっと前に知りたかったという大学生の反応を見ると、こういった現状は、自我が芽生える中高時代から学んでいかないと十分なキャリア形成ができないよな、としみじみ感じたりもします。

私も大学生の頃は時間が永遠にあるように感じましたが、社会人になって、20代は本当にたくさんのライフイベントがあるなと感じています。留学やNPOの準備などで大学生活を人より長く送った私は、23歳で社会人になりましたが、3-4年ほどで仕事や社会になれてきたと思ったらあっという間に27歳。今度は結婚や出産の準備をしなくてはいけないとされる年齢になりました。

私は幸いにも仕事がそのまま出産・子育ての知識にもつながっていますが、そうでもない限り、今から結婚や出産のことを学び、パートナーを探し、気づいた頃にはあまり時間がないということもあり得ます。それに加えて、社会保険や生命保険、税金のこと、住まいや法律のこと、出産や医療など、家庭を築いたり、自立していくために必要な知識はたくさんありますが、残念ながら学生時代にそういったことを学ぶ機会はほとんどありません。家庭科や技術科、保健体育等で教科としては設置されていますが、私を含めまわりの人や現場の話を聞くと、あまり生活に密着した形では学んでいないケースが多いです。

昔のように親戚と同じ家や隣で暮らしながら、親と祖父母が子育てを一緒にしてくれるような環境であれば中途半端な知識でも子どもはすくすく育つかもしれません。また、専業主婦が多ければ、お互いの情報共有も含めて、子育てや出産について知る時間と機会を作ることができるかもしれません。

しかし、今や共働きが(望むかどうかは別として)当たり前になってきています。本当はそういった社会の変化にともなって学校教育の見直しをしていかなければ、「悪気のない児童虐待」「悪気のない育児放棄」「悪気のない未熟な子育て」は増えていき、未来を支える子どもたちが十分な愛情や教育を受けられないまま大人になってしまいます。支える側ではなく、大人になっても社会保障を受けないと生きていけないという事例が増えていきかねるのです。それは、子どもたちのせいではなく、制度の見直しや改善を怠ったツケであると思っています。民主主義である以上は、その責任は残念ながら国・行政だけでなく、社会の人と書く「社会人」であるわれわれ全国民にあるのです。

さて、いつも通り前置きが長くなりましたが、今回はなぜぎりぎりのラインを生きながら、人に頼ったり、制度を頼らないかについて書かせていただきます。前編ではまずは養育費の支払の実態からその原因や傾向を見ていきたいと思います。

日本で養育費を払い続けている前夫は19%

まず真っ先に、離婚したならば前の夫から養育費をもらわないのかという疑問が湧くかと思います。以下が養育費についての現状を表しているデータですが、養育費を払い続けている前夫はわずか19%しかいません。そしてその割合は平成18年からほぼかわりがなく、むしろ受けたことがない人の割合は微増ではあるものの、増えているのが現状です。(今回は、母子家庭の貧困率の高さについて取り上げているため、母子家庭側の現状にのみ触れていきます。)

養育費の取り決めをしていない理由の1位は「相手に支払う意思や能力がないと思った」2位は「相手と関わりたくない」になっています。DVによって逃げていて、前夫と連絡を取りたくないという人もいたり、養育費について十分な理解が行き届いていないケースが少なくありません。DVや支配的な夫のもとで主従関係があり、養育費をもらえるとすら思っていないケースも多いのです。また望まない妊娠や、計画していない妊娠等で、婚姻関係のないケースもあり、そもそも養育費の対象から外れてしまうと思っているケースも多いです(実際は婚外子でも手続きを踏めば養育費の請求をすることができます)。誰が子どもの父かわからなかったり、子どもの父の行方がわからないケースもあります。誰の子どもかわからない場合、父は逃げられますが、母はおなかが膨らんだり、生命を肌で感じる分、心身ともに逃げることはできません。その結果、子育ての責任は母親だけに押し付けられてしまうといったケースがあるのです。

こういった場合、本当は利用できる専門機関があります。弁護士に相談をして、代理人となってもらえれば、前夫と直接のやりとりを避けることはできます。自分自身は交渉ができなくても、弁護士によってしっかり権利を保障してもらうこともできます。また養育費が支払われなくなった場合に備えて事前に文章(公正証書)を交わし、強制執行させることができるのですが、こういった文章を事前に交わしている割合も4割にも満たない現状です。さらに平成18年は取り決めていない割合が58%でしたが、23年は60.1%と、減るどころか微増ではあるものの、増加しているのが現状です。

そしてこういったプロセスについて具体的に相談しているケース自体もかなり少ないです。以下のデータは養育費の主な相談相手についてですが、そもそも4割の人は相談したことがないと答えています。相談した場合でも、自治体の窓口や、弁護士、家庭裁判所等の専門機関に相談しているケースは半数にも満たない状況で、全体の割合の1/4程度にとどまっていることがわかります。親戚や知人等に相談する程度となっていて、細かい情報を取り寄せてしっかりとした手続きを踏んでいるところは全体の割合からしてもかなり少ないのです。

弁護士というと心理的にも経済的にもハードルが高い印象があるせいで、利用にいたっていないケースも多いです。しかし、実際は「民事法律扶助業務」という資力の乏しい国民に対して、弁護士や司法書士に支払う費用の立替を行ってくれる制度があるのです。(日本司法支援センター、通称「法テラス」にて申請可能)。 無利子ではあるものの基本的には返済義務があるため、借金という形にはなりますが、上手に利用できれば継続的に養育費をもらうことができるようになり、経済的には楽になる可能性があります。

ただ、この制度もほとんど知られていないのが現状です。相談窓口までたどりつければそのようなことも伝えてもらえるのですが、生活に困窮している場合、昼夜ともに働いていて、行政の窓口が空いている時間は働いていることが多く、また子どもに十分な養育環境を提供できていないことがばれてしまうのではないかという恐怖心から行政窓口自体に抵抗感を感じているケースも少なくありません。彼ら彼女らもやり方はわからないけれど、「本当はちゃんとしてあげたい」という気持ちがある分、うしろめたさから余計に、公的な機関は利用しない傾向にあるのです。 

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