「メディア・ジャーナリズムの未来」というテーマについて、2014年も国内外において数多くの議論や試行錯誤がおこなわれましたが、2015年を迎え、ますますその勢いは加速していくことと思います。正月休みに偶然手にした書籍『Geeks Bearing Gifts: Imagining New Futures for News』を一気に読み、その思いがますます強いものになりました。
『Geeks Bearing Gifts』とは少し分かりにくいタイトルですが、ギリシャ神話の「トロイの木馬」に基づいた英語の諺「Beware of Greeks bearing gifts」(油断ならない贈り物(トロイの木馬)をするギリシャ人(に注意しろ)。さらに「親切そうに見える人の裏切りに気を付けなさい」という文脈で使われる言葉)に由来します。
「Greeks」(ギリシャ人)を最先端の技術を持つ「Geeks」(ギーク/オタク)に置き換え、隠喩的に「インターネットなどのテクノロジーによりイノベーションをもたらし、無料で使えるウェブサービスなどを提供する「ギーク」たちによって、従来のビジネスモデルを破壊されかねない(すでにされつつある)ので注意せよ」というような意味が込められているのだと思います。また、このようなギークたちとどのように向き合うべきか、という問題提起をも投げかけています。
2014年11月に出版されたこの本の著者はニューヨーク市立大学大学院(CUNY)ジャーナリズム学科で「起業ジャーナリズム(Entrepreneurial Journalism)」のプログラムのディレクターを務めるジェフ・ジャービス教授です。彼の運営するブログサイト「バズマシーン」や『パブリック~開かれたネットの価値を最大化せよ』などの書籍を通じ、昨今のメディア・ジャーナリズムを巡るイノベーションについての論客としても知られている注目の人物です。
今回の書籍が重要であると感じ、ご紹介したいと思った理由が2つあります。
ひとつめの理由は、この約230ページの書籍の中に、近年あらゆる場所で議論されているメディア・ジャーナリズムにまつわる論点が余すことなく紹介されていて、それぞれについて詳細なデータ、そして具体的かつ先端的な成功・失敗事例が豊富に紹介されている点です。目次を眺めるだけでもその多様なテーマについての議論の方向性を伺うことができます。また、著者独自の率直な意見、予測も随所に盛り込まれています。
なお、ジャービス氏本人はそもそも「メディア・ジャーナリズムの未来」は自分を含めどうなるか誰も分からないし、予測をすることで将来の可能性を狭めたくないので、あくまでも自分なりの見解をまとめる目的で本書を執筆したと語っています。
なによりこうした書籍をきっかけに多くの人が自分なりの新しいアイデアや議論を広げていくことでコラボレーションが生まれ、よりよいメディア・ジャーナリズムの未来が生まれていくことを願っている、と本書の中でも強調しています。
多くの人による議論を促すため、著者は現在、書籍コンテンツを少しずつ無料でブログプラットフォーム「Medium」上に公開しており、いずれすべてのテキストがウェブ上で閲覧可能になります(1月5日時点で公開されているものは上記目次のリンクから閲覧可能です)。