[虎四ミーティング~限界への挑戦記~]
坪井智哉(プロ野球コーチ)<後編>「振り子打法、イチローとの秘話」

ポイントは「始動を早く」

二宮: 坪井さんといえば、振り子打法です。よく聞かれる質問でしょうが、これはイチロー選手の振り子打法を参考にしたとか。
坪井: そうですね。大学(青山学院)時代に、僕は真っすぐしか打てなかった(苦笑)。それでは打率が残せないので、どうしたものかと悩んでいました。その時に一躍、200安打を放って首位打者になったのがイチローだったんです。彼はものすごく変化球をうまく打つ。「よく、あれで打てるなぁ」と最初は半分ふざけてマネをしてみたんです。すると、意外としっくりきた。自分なりにマイナーチェンジしていくうちに結果もついてきたんです。

二宮: そのイチロー選手とは同学年。同じフォームだった縁で、プロ入り後に親交が生まれたそうですね。
坪井: はい。今ではプライベートでご飯も食べにいく仲です。最初に会った時はスーパースターでしたからね。雲の上の人という感じでしたよ。

二宮: 引退の決意も本人に会って告げたとか。
坪井: 所属していたチームはペンシルベニア州のランカスターが本拠地でニューヨークからも近い。電車で3、4時間くらいで行けるので、ニューヨークで彼の試合を観て、夜、一緒にご飯を食べながら、いろいろ話をしました。

二宮: 引退を報告した時のイチロー選手はどんな様子でしたか。
坪井: これまでのいきさつを話した上で、「そろそろ引退を考えている」と言ったんですけど、「それだけ野球が好きなオマエが、考えて出した答えだろうから」という返事でしたね。イチロー自身は「できるまでやりたい」と話していました。同学年の人間としては彼にはできる限り、長くやってほしい。当たり前のように「1番・ライト」で出場している姿を見ていたいですね。

二宮: イチロー選手や坪井さんをマネて振り子打法を取り組んだ野球少年もたくさんいます。振り子打法において、一番大事なポイントは?
坪井: 感覚は人それぞれでしょうが、僕は「始動を早くする」ことを心がけていました。始動を早くしてピッチャーのボールを待ち構える。ピッチャーのモーションに合わせてタイミングをとるのは、合っている感じがしても実際には遅れている。「あ、早すぎる」と思うくらいの方がちょうどいいんです。

二宮: ピッチャーに合わせるのではなく、自分のタイミングに引き込むというイメージでしょうか。
坪井: そうですね。「どこでも打てるから、さぁ、いらっしゃい」と先に準備をして待ち構える。ボールを打ちに行くという感覚ではないんです。

二宮: もちろん、ピッチャーもバッターの間合いで投げないようにしてきます。そのせめぎ合いになるわけですね。
坪井: だから、バッティングは難しいんです。同じリズムでやっているつもりでも、だんだんタイミングが遅れてくる。それはどうしてか。やはり調子が落ち始めると、ボールを長く見ようとしてしまう。これは本能なんでしょうけど、目でボールをとらえにいってしまうんです。打ち損じをしたくないとの意識が働くので、だんだん始動が遅くなる。それで余計にタイミングが遅れて差し込まれる。これが不調になるメカニズムだと考えています。

二宮: よく「ボールは最後まで引きつけて打て」と言われますが、タイミングが遅れてはダメだと?
坪井: はい。大事なのはタイミングとポイントですね。ボールを引きつけて打った方がいいのは、その通りです。でも、引きつけ過ぎも良くない。自分のタイミングとポイントでいかに打てるか。ここが重要だと思います。