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特別読み物 ベテランジャーナリストが見た政権「奥の院」安倍官邸の正体
自民党より官邸の権限が強い「政高党低」は今なお続く〔PHOTO〕gettyimages

ごく限られた人間しか足を踏み入れられない、安倍首相と側近たちの「城」。文字通り永田町の真ん中で、この国の進む道が決められている。「もう失敗は許されない」—官邸の覚悟と策略を全て書く。

6人が集まる「秘密会議」

時事通信社で35年間政治報道に携わり、現在は同社解説委員を務める田﨑史郎氏が、このほど『安倍官邸の正体』(講談社現代新書)を刊行した。

国民と野党の不意を打つ解散総選挙と自民党の勝利、そして丸2年を迎えようとしている安倍政権の裏側で、何が起きていたのか。田﨑氏は安倍晋三首相、そして菅義偉官房長官ら政権の枢要に直接取材し、肉薄した。

今年の夏、安倍へのインタビューで、「'18年9月まで続く長期政権になるのでは?」と水を向けると、こんな答えが返ってきた。

「そう簡単ではないけど、とにかく今回は続けるということも重視してるんですよ。日本が存在感を示すためには、総理大臣が長くやるというのは決定的に必要なんですよ」「途中で代わったら、いわゆるアベノミクスも当然終わるわけです。私が辞めた瞬間にね。これじゃまた道半ばになると思っている」

衆院が解散された後、かかわった自民党関係者は、「よく漏れなかったものだ」と振り返った。9月3日の内閣改造・自民党役員人事の前、つまり真夏から、安倍や菅は年内解散を選択肢に入れて解散時期の模索を始めていたからだ。

しかし、真夏の段階で解散時期を年内に絞り込んでいたわけではない。菅は「'16年夏の衆参同日選」を描き、安倍は「早くて'15年4月の統一地方選とのダブル選挙」と考えていた。実際、9月の内閣改造・党役員人事では「選挙シフト」を敷かなかった。安倍は次のように証言する。

「消費税を上げられないと思ったのは、10月初めぐらいからです」

9月から10月にかけ、自民党内で幹事長・谷垣禎一を筆頭に、副総裁・高村正彦、総務会長・二階俊博、党税調会長・野田毅らが消費再増税を予定通り実施するよう求めた。彼らの発言を聞くたびに、この「再増税包囲網」を突破するには衆院解散に打って出るほかないと、安倍や菅は次第に考えざるを得なくなっていった。

年内解散の検討を始めた安倍は、菅にも党執行部にも内緒で、自民党事務局に直接、選挙情勢調査を命じた。調査にあたって、安倍は「絶対に口外するな」と厳命した。同じ時期に、民主党も候補者が立っている130選挙区で選挙情勢調査を行っている。

調査結果は同じトレンドだった。自民党は(解散前)現有の295議席を確保し、現有議席を越す可能性がある—。安倍が「今なら勝てる」という自信を抱いたのは間違いない。

解散翌日、安倍は電話取材にこう語った。

「再増税を先延ばしすると、『政局』になってしまうと思った。でも、解散すれば、選挙になりますから、みんな地元に帰ります」

また、菅もこう話している。

「一番良いタイミングだった。最善でした」

安倍政権を見る際、最も重要な視点は'06年からの最初の首相在任時の反省の上に成り立っていることである。華々しいスタートを切った一次政権がなぜ1年で終わったか—。安倍らと話していると、「あの時、こうしたのが失敗だった」という話をよく聞く。

一次政権では、首相官邸の態勢を首相補佐官を軸とした「スタッフ重視」に切り替えた。首相補佐官同士のヨコの連絡はなく、補佐官が官房長官を経由せずに安倍とそれぞれにつながっているだけだった。「チーム安倍」は成果を上げることなく、解体された。

官邸内の態勢を改める—。安倍が失意のどん底にあった時代に書き記した「反省ノート」にはこの項目があったはずだ。

首相官邸でほぼ毎日、首相を中心に開かれている重要会議の存在を知る人はごく限られている。首相の動きを逐一伝えているはずの新聞政治面の「首相動静」にも載っていない。しかし、この会議で政権の基本的方向、すなわち日本の針路が定まる。

「隠し廊下」を通って首相執務室に集まってくるのは官房長官・菅義偉、副長官の加藤勝信、世耕弘成、杉田和博の4人。これに、執務室隣の秘書官室にいる首席秘書官・今井尚哉が加わって計6人で、「正副官房長官会議」と呼ばれる会議が開かれている。

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