雑誌
2015年 大特集日本経済の常識が大きく変わる「1ドル=160円」を覚悟せよ
会社も景気も生活も、そしてこの国も大変なことに
週刊現代 プロフィール
〔PHOTO〕gettyimages

もう止まらない。総選挙が終わった。自民党の圧勝だ。安倍総理は円安・株高のアクセルをより強く踏み込むだろう。常識はずれの円安が、異次元モードへ突入する。なにが起きてもおかしくない。

業界地図も様変わり

「あの日」以来、生活はガラリと様変わりした。岡野幸三(仮名、56歳)は東京・新橋にあるオフィスを出て、近くの定食屋に行くと痛感した。少し前にはワンコインで済んだのに、いまではサバの味噌煮定食など定番メニューが1500円と高騰。隣のファミレスは富裕層向けの高級レストランと化し、サラリーマンの身では足が向かない。

相変わらず株価は上り調子で証券会社の前には人だかりができているが、株を買う余裕もない岡野には関係のないこと。かつては妻と銀座でショッピングも楽しんだが、いまや中国人観光客だらけ。ユニクロのレジは半分以上が免税対応の窓口に切り替わった。

円安がすべてを変えてしまった。汗を流して働いて貯めた預金は目下の円安でドル換算での価値は目減りする一方で、定年後の夢だった海外旅行にも行けそうにない。郊外の持ち家の値段も下がり続け、「10億円マンション」が続々と売れる都心部が別世界に映る。

電気料金も、健康保険料も上がり、生活苦が止まらない。近くの日比谷公園では、円安破綻した企業の失業者が炊き出しの列をなしている。そこに大学時代の友人に似た顔を見つけ、岡野は目を逸らした—。

これは1ドル=160円という超円安が現実化した際の近未来予想図だ。目下の為替相場が1ドル=120円の時代に何を言っているのかと思われるかもしれないが、絵空事だと思わないほうがいい。東京大学大学院教授の渡辺努氏が言う。

「黒田東彦総裁率いる日本銀行は大規模な金融緩和をすることで円安↑物価高をもたらし、日本をデフレ社会からインフレ社会に転換しようとしています。しかし、今年4月の消費増税の影響でモノが売れなくなることを懸念したスーパーなどが特売を増やし、物価はデフレ方向に引き戻された。これを再びインフレシフトさせるために、黒田総裁は3度目の金融緩和に踏み切る可能性がある。まさに1ドル=160円というのは、黒田総裁が目指す物価上昇率2%をもたらす為替水準。だから私は来年に日銀が追加緩和に踏み切り、年後半に1ドル=160円になってもおかしくないと思います」

先の衆議院選挙で291議席の圧勝を収めた安倍晋三総理にしても、デフレ脱却を目指すアベノミクスの真価を問うべく解散したのだから、インフレをもたらす円安誘導のためにどんな手でも使ってくる。すでに安倍政権は、大半を日本国債で運用していた国民の年金資金を外国株、外国債券に振り向けることで円安誘導しているが、これをさらに加速させる可能性もある。総額130兆円を超える年金資産を1割でも動かせば、その先にはおのずと1ドル=160円が見えてくる。

日本経済を好景気に導くといわれた円安株高が進んでいるのに、庶民の生活は悪化するばかり。アベノミクスが「異次元」と称されたまさにそのまま、日本経済そのものが異次元の段階に足を踏み入れようとしている。もはや何が起きてもおかしくない。1ドル=160円を覚悟して情報武装したほうが得策だろう。

1ドル=160円で日本はどう変わるのか。

実は円安で儲かると言われる大企業からして安心してはいられない。優勝劣敗が鮮明化し、業界地図が大きく塗り替わると専門家たちは指摘する。

たとえば自動車業界では、「国内生産比率が高く、かつ販売の海外依存が高い富士重工業とマツダが躍進。すでにスバルの株価はホンダを抜いているが、マツダの株価もホンダを超えていくでしょう」(経済ジャーナリストの塚本潔氏)。

トヨタは対米ドルで1円円安になると営業利益が400億円のプラスになるので、1ドル=160円となれば5兆円の営業利益を達成する見込みだが、問題になってくるのが米国自動車業界の対応。トヨタの営業利益が5兆円を超えると、米ゼネラルモーターズやフォードなどは太刀打ちできなくなり、米共和党が日本車の輸入制限を要求する可能性がある。そこで、「トヨタは円安だからといっても極端な値引きによる販売、インセンティブを上乗せして販売量を増やす戦略は取りづらい。一方で日産は逆にそうした戦略に動き始めているとも聞く。今後はトヨタより日産の伸びが大きくなるかもしれない」(東短リサーチ代表の加藤出氏)。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら