「シュタイナー教育を受けた原体験を生かして、多様な価値観によって触発しあう高校をつくりたい」---『cha!cha!cha!』編集長・石黒和己
cha!cha!cha!編集長・石黒和己氏

「高校をつくることに可能性を感じたのは、母校の存在がきっかけだと思います。私が高校3年生のときに学校法人格を取得したので、高校卒業資格をもらえないのに毎日通っていました。大学入試の面接でも『多様な価値観をもつ高校をつくりたい』とプレゼンしていましたね」

こう語るのは、慶應義塾大学総合政策学部2年の石黒和己氏(20)だ。名古屋生まれの石黒氏は地元の小学校を卒業後、神奈川県藤野町(現在は統合して相模原市)にあったシュタイナー学園 中等部・高等部を経て、慶應義塾大学に進学した。

シュタイナー学園は、オーストリア帝国出身の思想家、ルドルフ・シュタイナーの教育観や人間観にもとづき、12年一貫のカリキュラムを実践する学校。シュタイナー教育では、教科書やテスト、制服がないことをはじめ、点数評価をおこなわないことや早い時期からの外国語教育なども特徴だ。いまでは、この教育を実践する学校が世界中に1000校以上もある。

この教育を受けた石黒氏は高校生のときに出会った認定NPO法人カタリバで活動している。今回、「高校をつくりたい」という思いの背景や、2015年4月オープンに向けて準備中の中高生の秘密基地「b-lab(ビーラボ)」などについて聞いた。

中学時代の美術史のノート

シュタイナー教育が原点にあり、新しい高校づくりを考えた

名古屋で生まれ、ふつうの幼稚園と公立小学校を卒業した石黒氏。「幼稚園だけは制服でした」と笑う。その後、母親と神奈川県に引っ越し、シュタイナー学園 中等部に入学。そのまま同校高等部に進んだ。シュタイナー学園は石黒氏が高校3年生のときに高等部設置認可を取得したため、高校2年次に高卒認定試験で高卒資格を取得し、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に進学した。

そもそもシュタイナー学園に進んだのは、地元の学校のネガティブな話を聞いていたということもあれば、小学校のときに土曜日クラスでシュタイナー教育に触れていたという理由もある。シュタイナー教育では教科書がなく、先生の講義をメモし、講義に使用した参考資料と合わせてノートにまとめます。シュタイナー学園は「芸術としての教育」「自由への教育」を掲げており、美術史なども積極的に学ぶ。点数評価ではなく、ノートに対して先生が講評を返すという評価方法をとる。

12年制のうち、1~8年生(中学2年生)までは同じ担任がほぼすべての教科を教え、9年生からは授業ごとに先生が変わるとのこと。シュタイナー教育では、「エポック授業」も特徴的だ。毎朝90分、数週間続けて同じ科目を集中的に学ぶというもの。また、経験を重視することが石黒氏にとってよかったという。

「シュタイナー学園の授業のやり方は自分に合っていました。芸術や自由、主体性などに重きを置いているので、表現力やものが完成するまでのプロセスを理解しやすくなりました。みんなで大航海時代を学んだあとに、帆船で航海に出たこともあります。ほかにも児童養護施設で数週間、職業実習を経験しました」

高校の同級生はたった7名。進む先は多様だ。日本の大学とアメリカの大学がそれぞれ2名、イギリスの大学が1名、ギャップイヤーも1名いる。そして石黒氏が慶應義塾大学に進学。自分に合った教育を受けることができたが、高校1年生のときから少しずつ、高校をつくりたいという思いが芽生えていたという。

「高校入学と同時に母親からオートチャージのPASMO(パスモ)をもらい、いろんなところに行っていいと言われました。さまざまな場所で高校生に出会い、日常会話から鬱憤までいろいろと聞くなかで、自分の学校やほかの学校が正しいと思いませんでした。それなら、私が高校をつくりたい。そう思ったのが、最初のきっかけです」

この思いは、高校2年生の終わりから高校3年生にかけて加速した。高校2年生のときには、イベントを通じてカタリバに出会い、大学の志望理由書にも「カタリバ」の名前は登場した。「カタリバは高校への出張を通じて、貴重な出会いや経験を提供しています。しかし、1回きりの場合もあり、持続性を考えると、まだまだ足りない部分があると感じることもありました」と正直に語る。そこで、日常的に出会いや経験を提供できる場所をつくりたいという欲求がさらに生まれた。

大学に入ってからはカタリバで、カタリバ大学の教育学部シリーズを学部長として手がけるなど深くコミットするようになる。中高校の現場も30校ほど足を運んでいる。いまは学生唯一のジュニアマネージャーという肩書きで、2015年4月にオープン予定の「b-lab」の準備に注力している。

b-labは2015年4月に文京区にオープンする、中高生の放課後の秘密基地となる施設。カタリバが同区からの行政委託事業として展開する。石黒氏は2014年3月から本格的に立ち上げにコミットしはじめ、多いときには週6~7日活動。b-labは館長の今村亮氏と2名の職員、そして石黒氏の4名が中心となり準備している。文京区内の中高生スタッフも30名ほど活動に加わっているという。

石黒氏が編集長を務めるフリーペーパー『cha!cha!cha!』。第2号は2万5000部発行された
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