読書人の雑誌『本』より
2015年01月10日(土) 岩田 健太郎

もやしもんと学ぶ、(たぶん)日本史上初の一般向け感染症学の入門書
『絵でわかる感染症 withもやしもん』著・岩田健太郎

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絵でわかる感染症 withもやしもん』という本を上梓することとなった。「もやしもん」は「イブニング」などで連載されたベストセラー漫画(石川雅之作)で、「菌が肉眼で見える」不思議な能力を持つ青年が微生物を扱う農学部で大活躍・・・・・・というのはかなり噓で、あらすじを説明してもこの漫画のよさはわからない。こればかりは「読んでいただく」より他ないと思う。ちなみに「もやしもん」とは種麴屋のことだそうだ。

「もやしもん」と石川雅之の大ファンとしては、本書のイラストが石川氏の手で、しかも「もやしもん」のキャラを使ってなされるのは天にも昇らん喜びである。(ご覧の通り)精緻で美しい石川氏のイラストは、これだけで一見の価値はある。感染症学には何の興味もない、という諸兄もぜひ本書を(そのためだけにでも)開いていただきたいと思う。

さて、「感染症学」は「微生物学」ではない。微生物学は微生物を扱う学問だが、感染症学は感染症、すなわち微生物が起こす人の病気を対象とする学問だ。感染症は微生物を原因とする「コト」であり、微生物は「モノ」である。両者は深く関連する、しかし異なるものである。ところが、長く日本では「コト」と「モノ」とが混同されてきた。すなわち、「感染症学」は「微生物学」の一亜型であると勘違いされてきたのである。

「コト」と「モノ」は(当たり前だが)同じではない。感染症学は微生物学を基盤としているが、微生物学「そのもの」ではない。微生物学はドイツのコッホ、フランスのパスツールらがパイオニアとされるが、同時代の巨人、北里柴三郎、志賀潔、野口英世などの活躍をみても、日本では微生物学の歴史は長く、その質も高い。しかし、人の病気=「コト」を扱う「感染症学」においては極めて遅れているというのが(残念ながら)現実である。

例えば、微生物を殺す薬(抗菌薬)の微生物に対する効果は実験室内で測定できる。しかし、その抗菌薬が「病気を治すことができるか」はまた別の問題である。長く日本では、抗菌薬を「使った」「治った」(だから)「効いた」という「サンタ」論法、因果関係と前後関係の混同が普遍的に起きていた。今でも「薬が効く」という言葉を、真にその意味を理解しつつ用いている医学者は少数派に属する。

「微生物を殺す」ではなく「感染症が治る」ことを吟味するためには、感染症という「コト」=現象そのものの把握力が必要である。そこには感染症のクオリアというものがある。感染症学のプロが体得するそのクオリアを少しでも本書で追体験できるよう、テキストは工夫したつもりである。

微生物も肉眼で目に見えないから、その「モノ」としてのクオリアはイマイチわかりにくい。勢い、「気持ち悪い」「怖い」といった印象が先行する。そのクオリアの方は石川氏が卓越したセンスでイラスト化してくださった。筆者も想像すらできなかった微生物のクオリアが見事に絵になっている。

本稿執筆時点で日本では、そして世界中でエボラ出血熱という感染症が問題になっている。「エボラは怖い」「エボラは感染力が強い」といった、これまた印象だけが先行する報道がなされ、その報道に振り回されて政治家や官僚、多くの医療機関がパニックに陥り、パニックと恐怖を根拠とした、科学的には理にかなっていない対策が次々ととられている。理にかなった感染症学を活用していないからである。

はっきり言っておく。「感染力」などというものは存在しない。そこからして、すでに間違っているのだ。

では、エボラのなにが怖く、なにが怖くないのか。「感染力」がなければ、なにがあるのか。それも本書を通じてお伝えできたら、と思っている。

(いわた・けんたろう 神戸大学大学院医学研究科教授)
読書人の雑誌「本」2015年1月号より

 

岩田健太郎(いわた・けんたろう)
1997年島根医科大学卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院などを経て、2008年より神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。著書に、『「感染症パニック」を防げ!』『予防接種は「効く」のか?』『99.9%が誤用の抗生物質』(以上、光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮社選書)、『マンガで学ぶ感染症』『抗菌薬の考え方、使い方Ver.3』(以上、中外医学社)など多数。

岩田健太郎・著
『絵でわかる感染症 with もやしもん』
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