昭和の大物がまた一人---『必殺シリーズ』の生みの親・山内久司さんを偲んで
ABS朝日放送「必殺シリーズ」より

2014年は昭和期の偉大な名優、名制作者が相次いで他界したが、12月8日には朝日放送(本社・大阪)顧問の山内久司さんが8月に亡くなっていたことが分かった。没年82歳。故人の強い意志により、その死は半年近くも伏せられていた。山内さんに恩義を感じている役者や制作者は数多いから、生者を煩わせたくなかったらしい。

在京キー局の放送人ではないので、名前を聞いただけではピンと来ない方も少なくないだろうが、1972年から92年まで20年も続いた『必殺シリーズ』全21作の生みの親である。取締役昇進後も最後までプロデューサーを務めた。『必殺』は『水戸黄門』(TBS)と並ぶ昭和期の大ヒット時代劇。無数の人を楽しませ、熱狂的なファンが少なくなかったのは御存じの通りである。

混乱期を乗り越え、20年続くシリーズに

朝日放送の制作なのだが、テレビ朝日系の番組とは書けないのが、『必殺』の複雑なところ。ご記憶の人も多いだろうが、記念すべき第1作『必殺仕掛人』から5作目の『必殺必中仕事屋稼業』(75年)の途中までは、TBS系で放送されていたのだ。朝日放送がテレ朝系列に移行したのは75年。しかも、テレ朝の社名は77年までNET(日本教育テレビ)だったから、余計にややこしい。

NETはもともと朝日新聞が大株主だったのだが、75年までは大阪の毎日放送とネット契約を結んでいた。大株主と系列局が捻れる「腸捻転」という状態に陥っていたのだ。その解消が図られたのが同年であり、『必殺必中仕事屋稼業』は13話までがTBS系で放送され、14話からNET系に移ったのだから、本当にややこしかった。

しかも、これでスッキリした訳ではない。『必殺』は当初から大人気シリーズとなっていたので、それを失ったTBS系列は頭を抱えてしまった。このため、毎日放送が代わりの時代劇『影同心』(山口崇主演)を制作することに。ところが、その設定が『必殺』とそっくりだったのである。昼行灯扱いされる同心3人が、奉行所が裁けぬ悪党を葬るという筋書きだった。

『影同心』も面白い作品だったが、ここまで似ていると生みの親・山内さんが黙ってはいない。「パクリだ」と猛批判。テレビマンがこの言葉を公然と口にすることは滅多にないが、決してオーバーではなかった。なにしろ、設定だけでなく、作風もそっくり。『必殺仕掛人』の演出陣の1人だった故・深作欣二監督が、『影同心』の演出陣にも加わっていたためでもある。

『必殺』の制作は朝日放送と松竹だったが、東映の深作さんも演出陣に加わった。一方、『影同心』は毎日放送と東映の制作だから、深作さんは当然のように演出陣の一員になった。二つの時代劇は共同制作した映画会社に目を移しても腸捻転気味だったのである。

この混乱期を乗り越え、20年も続くシリーズに育て上げたのは、山内さんの行政手腕にほかならない。これだけでも名プロデューサーと呼ばれていいはずだ。

山内さんは懐も深かった。「パクリ」と罵った『影同心』チームの深作さんを、のちに映画『必殺4 恨みはらします』(87年)の監督に招いたのだから。過去の因縁に拘らない。作品本位の人だったのだ。

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