「餃子の王将」社長大東隆行氏はなぜ殺されたのか――迷宮入りと囁かれる事件の謎をジャーナリスト・一橋文哉が追った

『餃子の王将社長射殺事件』より

「餃子の王将」社長射殺事件・第1回
『早くも迷宮入り? 3・3・2・2の難事件』

「餃子の王将」を全国展開する「王将サービス」の大東隆行社長(当時72歳)が2013年12月19日朝、京都市山科区の本社前で、何者かによって至近距離から立て続けに胸や腹に拳銃弾4発を撃ち込まれ殺されるという衝撃的な事件が起きて、1年が経つ。

京都府警は延べ約2万人の捜査員を投入したが、犯人の正体どころか、大東氏が殺害された理由さえ分からず、警察内部では早くも「迷宮入り(未解決)」の声が囁かれている。捜査はなぜ、進展しないのか。

3つの“不運”で躓いた初動捜査

王将事件は、府警にとって3つの“不運”が重なっていた。逆に犯人側からすれば、それを狙って計画した犯行とも考えられる。

まず、事件当日が寒くて真っ暗な冬の早朝、しかも雨天とあって目撃者がなく、毛髪などの細かい物証や足跡がほとんど流されてしまったことだ。2番目は、大東氏が自宅から車を運転して一番乗りで出勤し会社周辺を清掃することを日課としていて、犯人が下見や待ち伏せなど十分に準備できた点である。そして最後は、「開かれた会社」をウリにする「王将」が本社敷地内に防犯カメラを1台も設置しておらず、警備員も配置していなかった現状である。

実際、府警は「王将」本社の道路を挟んで向かい側にある別の梱包会社の防犯カメラに映っていた犯人らしき人影と走り去る車両の画像をもとに、周辺の防犯カメラやNシステム(車両ナンバー自動読取装置)の画像を繋いで懸命に犯人を追跡したが見失い、犯人は闇の中に消えてしまった。かくして初動捜査は失敗に終わった。

王将事件は車内などに現金百数十万円が手つかずのまま残され、カネを奪う目的とは思えなかった。府警は早くから、冷静に拳銃を4発連射して全弾を致命傷となる部位に命中させた手口などから、「何者かに雇われたプロの殺し屋」の仕業と睨んでいた。

ところが、そうした見方と矛盾する3つの謎が現場に残され、捜査を迷走させたのである。

3つの謎に震え上がった「王将」

第1の謎は、凶器の拳銃が日本の警察官が使用し、暴力団のヒットマンなどもよく使っている38口径回転式ではなく、25口径自動式であったことだ。小型の25口径は持ち運びに便利で、発射時の反動が小さいから非力な人間でも使いやすい。反面、殺傷能力や命中率は低くなる。また、自動式は連射には向いているが、装弾不良などのトラブルが多く、プロの殺し屋はもとより、暴力団のヒットマンもまず使わない。彼らも命懸けだから、いざと言う時に故障したり相手に致命傷を与えられない武器は使いたくないのだ。

第2の謎は、弾丸を撃ち込んだ部位である。殺し屋は短時間で確実に致命傷を与えるため、1発目は頭部に撃ち込むケースが多い。94年の住友銀行(現・三井住友銀行)名古屋支店長射殺事件でも、犯人は38口径回転式拳銃で至近距離から1発で眉間を撃ち抜いており、凄腕の殺し屋ほど1発で仕留める傾向が強いのだ。

だが、王将事件の犯人は最初に頭部を狙わずに4発も連射、まだ弾倉に弾丸が残っていたはずなのにトドメを刺していない。現に、大東氏は銃撃されてから15分ほどは生存していたと見られ、第一発見者に犯人の人着(年齢や体格、服装などの特徴)や犯行の様子をしゃべられる危険性があった。