地震・原発・災害
その場しのぎの「浜岡原発停止要請」の大罪
菅総理は法治の根幹を揺るがしている

 菅直人首相がまた、取り返しのつかない、その場しのぎの思い付きを表明してしまった。3つの原子炉が残る、中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の運転停止要請が、それである。

 専門家の間で以前から、「福島原発よりも遥かに危険性が高い」とされていた浜岡原発の津波リスクへの対応策を菅首相が打ち出したこと自体は、決して悪くない。むしろ、東日本大震災から2ヵ月近くの時間が過ぎており、遅過ぎた感の強い決断である。

 しかし、何の法的根拠も強制力もない「首相の要請」という形で、民間企業の経営の根幹を左右する方針を打ち出したことは、決して容認できるものではない。

 そもそも、首相の行為は、法体系を以って権力を律するという近代国家の統治の大原則のひとつである「法治主義」を侵す行為に他ならない。

 歴史的な政権交代以来、民主党政権は何度も、その場しのぎの発言や対応を繰り返し、国家と国民の利益を損ねてきた。

 今回の行為はそれらを上回る深刻な失態であり、菅首相は改めて、自ら、首相としての資質をまったく備えていないばかりか、市民としての基本的な常識を欠いていることを示したと言わざるを得ないのではないだろうか。

震災直後に浮上した浜岡原発の津波対策問題

「福島原発事故の経験から、中部電力の浜岡原子力発電所の津波対策が喫緊の課題に浮上したと考えるべきです」

「高さ6メートルを超える津波が来れば、福島原発のような大事故が起きてもちっとも不思議ありません」

 東日本大震災の直後、この連載コラムの取材に追われていた筆者は、複数の取材先から異口同音に2つのポイントを聞かされた。

 第1は、日本の原子力発電所の震災対策に盲点が存在する問題だ。これについては、3月15日付の「『巨大津波対策不足』から続く誤算が招いた原子力発電『安全神話の危機』」で指摘したが、地震と言えば、国も電力会社も揺れに対する耐震性ばかりに問題を絞り込み、津波への備えを怠ってきたという事実がある。

「中部電力」HP

 そして、第2は、冒頭で紹介したコメントの通り、その津波対策に関しては、かねて、福島原発より浜岡原発の方がリスクが大きいというのが専門家の常識だという問題である。いたずらに不安を煽ることは本意ではないので、こちらについては、当時のコラムの中で、あえて固有名詞を明示しなかった。ラジオでコメントする時も「津波のリスクが高いのは、福島原発だけではない」と慎重に話してきた。

 しかし、東日本大震災の直後から、浜岡原発の津波対策は最重要課題となっていたのである。

 一方、当の中部電力は、東日本大震災の前から、積極的に、津波リスクに関心が集まるのを抑えようとしていた。ホームページ(http://www.chuden.co.jp/energy/hamaoka/hama_jishin/hama_tsunami/index.html?cid=ul_me)でも、図解入りで、安全性の高さの説明を試みている。

 具体的には、「痕跡高などの文献調査や数値シミュレーションの結果、敷地付近の津波の高さは、満潮を考慮しても、最大でT.P.+6m(筆者註=平常時の水面から6メートル高い)程度です。これに対して、敷地の高さは津波の高さ以上のT.P.+6~8mであり、津波に対する安全性を確保しています。さらに、敷地前面には、高さがT.P.+10~15m、幅が約60~80mの砂丘が存在しています。また、安全上重要な施設を収容している原子炉建屋などの出入口の扉は防水構造にしています。これらのことから、浜岡原子力発電所は、津波に対する安全性を十分に確保しています」といった具合だ。

 東日本大震災に伴い高さ15メートルを超える津波が福島第1原発を襲った事実に照らせば、わずか6~8メートルの高さの津波しか想定していない浜岡原発のリスクの大きさは他言を要しないだろう。

 中部電力も対応を迫られた。経済産業大臣の阪口正敏副社長が4月12日に大村秀章愛知県知事と会談、新設方針を表明していた防波壁の高さを15メートル超に引き上げると述べたという。この防波堤は、福島原発の事故に伴い、経済産業大臣が全国の電力会社に出した緊急安全対策を受けて、中部電力が3月下旬に12メートル超のものを設けると表明していたものである。

 しかし、これで問題が解決したわけではない。というのは、この防波壁の建設には、2~3年の歳月が必要だからである。それまで巨大津波に対して無防備な状態を放置することには、やはり大きなリスクが残る。

 それゆえ、菅首相自身は記者会見で期間を明確にしなかったものの、防波壁の完成までの間、浜岡原発の運転を停止させるというのであれば、これは必要な措置と言えよう。

 とはいえ、防波壁の完成までの間、浜岡原発の運転を停止させるという措置を打ち出すまでに、東日本大震災から2ヵ月近い時間がかかったことは問題だ。国民をこの間、多大なリスクにさらしたことの責任は重大である。

 菅首相自身が記者会見で運転停止の理由にあげたように、文部科学省の地震調査研究推進本部は「これから30年以内にマグニチュード8程度の東海地震が発生する可能性が87%」としている。そして、浜岡原発は、その揺れや津波の直撃を受けかねない発電所だ。

 その一方で、中部電力は原子力発電への依存度が小さく、原発の運転停止に伴う電力供給量の減少は関西電力や東電に比べて小さい特色もある。この辺りの事情をみれば、なぜ、もっと早く対応できなかったかとの疑問が湧く。

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