「勉強を楽しくすることで、社会に貢献したい。そのために人間のことを理解することがいちばん重要」---参考書作家・船登惟希
佐藤 慶一

仕事で問題にぶつかり、学術書に答えを求めた

出版甲子園には、子どもでも楽しめるサイエンスノベルとイラストやストーリー性を盛り込んだ参考書、という2つのアイデアを提出。どちらの案も決勝に進んだ。決勝では、サイエンスノベルをプレゼンしたが、結局のところは、発表しなかった参考書のアイデアが学研の編集者の目に留まった。2011年4月に『宇宙一わかりやすい高校化学』として出版され、いまではシリーズ展開している。実は、小説のほうもすべて書き終わっており、出版甲子園以降、ずっと温めている段階だという。

東京大学大学院に進んでからは、就活と研究と書籍執筆に時間を費やした。1年の12月には株式会社DeNAから内定をもらい、就活を終えた。それ以前には、同社のサマーインターン「StuDIG(スタディグ)」で優勝し、特典でシリコンバレーにも行った。同社を選んだのは、非営利団体に対する問題意識がある。「いい活動をしてもマーケティングや経営、マネジメントなどを知らないことで、インパクトが出せていない団体が多くあります。その頭打ちを打破するために、徹底的にビジネスを学ぶことを選択しました」。

1年目の冬には、DeNAショッピングの流通部門の責任者に就任。しかし、2年目に入って、問題にぶつかった。「これまでのナレッジだけでは大きく成長できず、どうしていいのか分からなくなりました。ネットでも情報を集めていましたがあまり役に立たず・・・。そこで、学術書に答えを求めるようになったんです。そしたら、知りたいことがすでに研究されていたり、論点が細かくなっていたりして、とても役に立ちました」。

学術書で独学したCRM(Customer Relationship Management;ユーザーとの関係やコミュニケーションを最適化して自社利益の最大化を目指すマーケティング手法)を自社の状況に照らし合わせて施策をおこなった結果、2年目にはMVPを獲得。その後も積極的に情報源を学術書に求めるようになったが、本を読むにつれ、別の課題にも出会った。せっかく読んだ内容を覚えていない、必要なときに引き出せないということだ。「業務内容が変わると、改めて読み返さないといけない本もあるんですが、内容を覚えていないことがあって。家には数千冊の本があるので、必要なときに見つけるのも大変でした(笑)」。

それから船登氏は、文章理解や記憶に関して認知科学にヒントを求め、読んだ本の要約(サマリー)をつくり、テーマごとに整理するようにしたという。たとえば、「認知心理学」のサマリーは50冊ほどの本の要約を体系的にまとめ、Google Drive上に保存し、スマホで見返しているという。新著『サマる技術』では、多数の書籍の引用も交えて、そのメソッドを公開している。

サマリーをつくるのは大変そうではあるが、「つくるも活かすも危機意識次第」だと船登氏は語る。「ぼくの場合は、流通目標を達成させるためには本の知識を血肉にし、成長しなければならないと危機感を感じたこときっかけです。一度サマってしまえば、たとえ忘れたとしてもクラウド上のサマリーと繰り返し同期していくことができ、本の内容を記憶にとどめ、活用できるようになります」。

独立してからも、認知科学や科学史などを独学しサマリーを作っているという。わかりやすくて楽しい教育コンテンツを作るためには、人間の認知メカニズムや、学問の歴史的背景を学び、それを教材に反映させる必要があるからだ。

昨今、テクノロジーと教育が積極的に交わり、盛り上がり始めているが、船登氏は「人間の心理や記憶の仕組み、学問の歴史などを踏まえながら、人間のことを理解することがいちばん重要。今はそれを紙媒体を通しておこなっている」と語る。将来的にはオンラインでのコンテンツ活用やオフラインの講座などにつなげていきたいとのこと。「勉強をもっと楽しくしたい」と考える船登氏が、今後どのように社会や教育にアプローチしていくのか。これからの執筆活動も合わせて楽しみにしたい。

 

船登惟希(ふなと・よしあき)
1987年新潟県佐渡市生まれ。東京大学理学部化学科卒業。東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程中退。株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て独立。参考書作家として小学生〜大学生向けに「楽しくてわかりやすい教育コンテンツ」の執筆・出版をおこなっている。著書に『宇宙一わかりやすい高校化学』シリーズ、『大学受験らくらくブック(化学)』『大学受験らくらくブック(生物)』などがある。近著に『サマる技術』(星海社新書)。

 

サマる技術
著者:
船登惟希
(950円、星海社新書)

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