ICT化推進へ巨額予算投入文科省
期待される学習効果学校整備は自治体の裁量任せ[教育]

パソコンを使った授業を楽しむ児童たち(記事とは直接関係ありません)

教育のICT(情報通信技術)化を推進するため、政府は今年度から4年間で総額6712億円をICT整備予算として計上している。単年度1678億円にも上る巨大予算だが、狙い通り学校で整備が進むかは不透明だ。国が使途を特定できない地方交付税措置のため、最終的には地方自治体の裁量にゆだねられているからだ。文部科学省の調査では、2013年度は整備費1673億円のうち実際にICT整備に充てられたのは7割だったこともあり、同省はIT関連会社の協力も得ながら本格的なテコ入れに乗り出す。

教育におけるICT活用の推進は、13年6月に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」に盛り込まれた。ICT化は教育にどんな変化をもたらすのか。

文科省は11年度から3年かけて全国の小中学校で実証研究をしてきた。それによると、▽興味・関心を高め学習意欲が向上▽思考力や表現力が向上▽知識・理解の定着――などの効果が見られた。小学校では低学力層で学力の底上げに効果があり、中学校では高学力層の学力上昇がみられた。さらに、特別支援教育でも▽重度の障害がある児童・生徒の感覚機能、運動機能の向上▽自立支援や基礎学力向上に向けた自作教材の開発・活用――などの有用性が明らかになった。

具体的な取り組みをみると、授業スタイルの幅が大きく広がるのが特長だ。例えば、「反転授業」というのがある。その先進的な自治体が佐賀県武雄市だ。

同市は今年度から全児童に1人1台タブレット端末を配布した。反転授業とは、授業の前日にタブレット端末に組み込まれた動画教材を見ながら小テストで問題を解くなどして予習しておく。そうすると、学校の授業ではそれを前提として、児童同士による討論を中心とした授業が展開できる。

授業で学んだことを自宅で復習する従来の方法を「反転」するから反転授業と呼ばれる。ある校長は「子供たちはほぼ100%予習してくる」と胸を張る。別の校長も「授業前に児童同士の学び合いが見られるようになった」と手応えを感じている。

答えのない課題を与え、児童同士で解決策について議論したり、時には教員がアドバイスを加えつつ、互いに意見を発表し合ったりするような「課題解決型学習」や「双方型授業」は総称して「アクティブ・ラーニング(AL)」と呼ばれる。11月20日に下村博文文科相が小中高校の学習指導要領の全面改定を中央教育審議会に諮問したが、ALの充実など指導方法の充実を第一の柱に掲げた。

諮問はこう強調する。「今の子供たちや、これから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、社会構造や雇用環境は大きく変化する。我が国の将来を担う子供たちには、こうした変化を乗り越え、高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協働しながら価値の創造に挑み、未来を切り開いていく力を身につけることが求められる」

こうした力は「21世紀型スキル(能力)」と呼ばれ、その育成にはALが不可欠としている。中教審での議論を経て、次期学習指導要領は20年度から小学校から順次実施されることになる。

大学ではここ数年、ICTを活用したALの導入が急速に進んでいる。小樽商科大では12年度にAL専用教室を作り、現在6室にまで増やした。教室は四面にプロジェクターが据えられ、学生の意見や資料は各学生のタブレット端末から同時に多数表示できる。同大によると、多様な授業形態が可能になっただけでなく、学生の学習時間も延びる効果が出ているという。ALでは授業前に予習し、自分の考えを整理して臨まないといけないためだ。同大担当者は「学生の授業外での学習時間は平均して1日2~3時間延びたのではないか」と話している。小中高でも同様な効果は期待される。

さらに、離島や過疎地の学校では少子化に伴い配置教員が減ったために、書道など一部の科目で必要な教員を確保できないといった課題に直面しているが、テレビ会議システムなどICTを活用することで、教員がいる学校からの「遠隔授業」も可能になる。これまで通学が前提になっている全日制と定時制高校では遠隔授業は認められていなかったが、文科省は来年度から解禁する方針だ。

地方交付税措置で4年間で6712億円

このように学習効果が実証されている教育のICT活用だが、整備はまだ不十分だ。文科省の調査では、教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数はここ数年は6・5人前後で横ばいが続く。教育振興計画は今後5年間で「1台当たり3・6人」を目標に設定しており、政府は今年度から毎年1678億円、4年で計6712億円の地方交付税措置を計画している。しかし、地方交付税の性格上、別の予算に使われてしまう可能性がある。

その背景には、自治体のICT化の有効性に対する理解度不足や予算措置の周知不足が要因にある。文科省によると、特に小さな自治体では、▽ICT化したくてもノウハウがない▽ICT化の利点について財務担当部署を説得できない――ことなどがICT化の障壁になっている。そこで、文科省は来年度の概算要求でこうした自治体への支援策を新規に盛り込んでいる。

これに合わせるように、産業界も自治体への支援策に乗り出した。ICT推進の流れは業界にとって大きなビジネスチャンスだ。13年5月に61社が「Windowsクラスルーム協議会」を設立した。同協議会は学校教育でのICT活用の加速と定着を図るのが狙いだ。今年10月には「圏域包括プログラム」を発表した。

自治体から要請があれば、ICT整備に関するノウハウを提供する内容だ。さらに「特別価格」も打ち出した。小さな自治体にとって、地方交付税措置があるとしても整備費用は大きな負担だ。そこで、同一の都道府県で、複数の自治体が整備を計画した場合は割引制度も整えた。

教員がICT機器を使いこなせるようにすることも大きな課題だ。OECD(経済開発協力機構)が中学教員を対象にした勤務状況調査「TALIS」(タリス)では、日本の教員のICT活用力の低さが明らかになった。文科省は来年度から、「次世代型教育推進センター」を設置し、ALなどに関する研修システムの構築を目指す。

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