upperline

「戦争はチェスだよ。僕たち"駒"は傷ついていくけれど、駒を動かす人間は傷つかない」。

今年6月、「イスラム国」がイラク北部で急速に勢力を伸ばし、遂に大都市のひとつ、モスルが陥落。その戦闘から逃れてきた友人がこう呟いた。彼の言葉を電話越しに聴きながら、ふと恐くなった。もしも社会の流れがこのまま変わらなかったとしたら、いつか日本でも同じことが起きるのではないか、と。

選挙を目前にし、賃金や雇用、そんな差し迫った問題を列挙していけばきりがないかもしれない。けれどもそれ以上に、今すぐには目に見えない、漠然とした不安が追いかけてきているように感じるのだ。その感覚がより一層強くなったのは、祖国を追われるシリア難民の声を聞いたからだ。

私が訪れたシリアの隣国ヨルダンには、正式に難民登録しているだけで60万人以上のシリア人が戦乱を逃れなだれ込んできていた(実際の難民の数は、その二倍以上とも三倍近くとも言われている)。首都アンマンの病院では、銃撃戦や爆撃に巻き込まれた子どもたちが治療を続けていた。中には親が国境を越えられず、たった一人隣国で怪我と闘っている少女の姿もあった。出会う難民の方が口々に語る。「日本はとても平和な国だ。いつか私たちも日本のような国を目指したいんだ」。日本は「戦争をしない国」だという認識は、彼らの中にも色濃くあった。

けれどもふと冷静に考えてしまう。今の日本は、彼らに胸を張って「戦争をしない国」だと言えるのだろうか。9月にはアメリカがシリア北部を空爆。このままでは、出会った人々の故郷に爆弾が降り注ぐのを後押しする国になってしまうのではないか。そうなれば、あの時出会った人々が、同じ言葉をかけてくることはもう二度とないだろう。

集団的自衛権の問題は、様々な調査に目を通しても、有権者の関心事項の上位には食い込んでいない。多種多様な価値観が生まれては消える混沌とした時代では、数年先の未来さえ、目を凝らしても見えないかもしれない。それでも「理想とする未来」を思い描き続けることを、諦めたくない。私たちはチェスの駒ではなく、意思を持った人間だ。だからこそ、その意思を一票で表し続けるのだ。

安田菜津紀(やすだ・なつき)
1987年神奈川県生まれ。studio AFTERMODE所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、カンボジアを中心に、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。2012年、「HIVと共に生まれる -ウガンダのエイズ孤児たち-」で第8回名取洋之助写真賞受賞。共著に『アジア×カメラ 「正解」のない旅へ』(第三書館)、『ファインダー越しの3.11』(原書房)。上智大学卒。
連載:「ファインダー越しの東北」http://gendai.ismedia.jp/category/yasudanatsuki

このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
関連記事


underline
アクセスランキング
1時間
24時間
トレンドウォッチ
編集部お薦め記事