「増税の延期で外交の失敗や捜査妨害をごまかそうとする安倍政権 それにひっかかるほど国民はバカではない」ほか

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol.049 文化放送「くにまるジャパン」発言録より

伊藤: 衆議院が今日(11月21日)の午後の本会議で解散されます。政府はこれを受けて臨時閣議を開き、衆議院選挙の日程を来月2日公示、14日投票と決定します。衆議院選挙は、自民党と公明党が民主党から政権を奪い返した一昨年12月以来です。

選挙では、安倍総理大臣が掲げる経済政策「アベノミクス」を続けるかどうかが大きな争点になります。安倍総理は「金融緩和や成長戦略などを一体的に進めることがデフレ脱却の唯一の道」と訴えるのに対し、民主党など野党は「経済失政で行き過ぎた円安などを招いた」と批判しています。また、今回の解散の理由やタイミングに「大義がない」とも主張しています。さらに、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障政策や原発の再稼働、特定秘密保護法の施行をめぐっても論戦が展開される見通しです。

今回は小選挙区295、比例代表180、合わせて475議席で争われます。安倍総理は、過半数の238を勝敗ラインに設定しています。

邦丸: 今日解散、来月2日公示、14日が投票ということですが、いろいろなところで「大義なき解散」と言われています。佐藤さんはどのようにご覧になりますか。

佐藤: 700億円の無駄遣いですね。

邦丸: ははあ。

伊藤: 700億……。

佐藤: 本当にもったいないです。「民意」は税金を上げるときに問わなければいけないんですよ。消費税の引き上げを先延ばしにすることについては、景気条項(「消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」消費税率の引上げに当たっての措置附則第18条より抜粋)がついているわけですから、国会で審議してコンセンサスを得ればいいだけの話なのに、なんでこのことでこんな民意を問う選挙をやるのか、不思議ですね。

これは、日中首脳会談で中国に譲り過ぎたから……。

邦丸: 中国に譲り過ぎたというのは、どういうことですか。

佐藤: 領土問題に関して、事実上、尖閣は係争問題だと認めているにもかかわらず、中国側からはあそこに中国の飛行機が入ったりしないとか、船が入ったりしないとか、言質を取れていない。これは外交の敗北ですよ。

それから、私も東京地検特捜部のお世話になりましたが、東京地検特捜部というのは、政治疑惑、特に閣僚をやっている人の大きなおカネの疑惑は徹底して捜査しなくてはいけないんですよ。選挙になると、その捜査が止まりますからね。ここで選挙をやるということは、限りなく捜査妨害に近いんじゃないかと思います。

邦丸: うーむ。

佐藤: なんでも、今回は景気条項を外しちゃうということです。となると、絶対に税金を上げますと、それを問いたいのだということですよ。だいたい、少しの期間だけ2%の増税を遅らせたところで、外交の失敗や捜査妨害をごまかせるか、そんなことで国民がひっかかるとでも思っているのか。国民のことを軽く見ているのではないか。こういう感じがします。

邦丸: 朝日新聞の世論調査を見てみると、支持政党について、自民党はほとんど変わらず30%半ばぐらいなんですが、民主党は前回6%だったのに最新の世論調査では13%にぽーんと上がっている。これは受け皿になる野党がないと言いつつも、選択肢がないけど、でもなあという気持ちの表れなんでしょうかね。

佐藤: そうでしょうね。自民党でないなら、民主党にするしかないと。あるいは、与党の別のところにすると。

ただ、朝日新聞は今回、得しましたね。もしこの選挙がなければ、朝日新聞問題でそろそろ全体の総括だということで、けっこう「祭り」(インターネット上で議論が異様に盛り上がる)状態になったでしょう。これが飛んだから、朝日新聞は今回の総選挙で得したかもしれませんね。

邦丸: ははは。まあ、社長交代ということになりましたけど。

いずれにしましても、佐藤さんは700億円の無駄遣いだと見ている。世論調査を見ても、今回の選挙に大義を感じないという回答が多い。

佐藤: それによって政治的無関心、政治家は自分のことしか考えていないというアパシー(apathy/無関心)が広がることが怖いです。そうすると、大きい声でわめく人間がおもしろいとか言われて台頭してくるかもしれませんからね。

邦丸: うーむ。

佐藤: それはよくないです。

邦丸: はい。続いてのニュースはこちらです。

伊藤: 「次期学習指導要領、日本史必修化手さぐり」。読売新聞によりますと、小学校から高校までの教育内容などを定める学習指導要領の全面改訂が昨日、中央教育審議会に諮問されました。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年から順次実施の予定で、グローバル化社会で活躍する人材の育成を目指し、高校での日本史必修化、小学校英語の教科化などが検討の柱となります。

邦丸: 道徳教育も教科にしようかという話もあるようなんですが、前から言われていることなんですが、日本史、我が国の日本の歴史をちゃんと若い世代に知ってもらおうということのようですけれど、これは佐藤さん、どう見ますか。

佐藤: 必修にするべきだと思います。私は日本史、世界史、地理、政経、倫社の社会科全科必修論者なんです。ただし、教科書を少し改めたほうがいい。実は、いわゆる進学校ではない、実業系の高校で使われている「日本史A」「世界史A」の教科書がすごくよくできているんです。

邦丸: どういうことですか。

佐藤: 社会人になってからも役に立つように、近代以降を手厚くして今の世の中がわかるようにしてあり、昔のことについては比較的記述を少なくしている。それに加え、読んでわかるようになっているんです。覚えればいいというのではなくて、流れがわかる。だから、「日本史A」「世界史A」でもう一回勉強し直しているビジネスパーソンがけっこういるんです。

邦丸: へえ~~。

佐藤: この「日本史A」「世界史A」をやると、実用性が非常にあるので、ここのところから工夫して大学入試問題を出すようにすれば、暗記科目としての「歴史」というのはだいぶ暗記の量が軽減されて、その代わりに流れをつかむとか、歴史をどう見るかという運用能力が身に付きますね。なんでもかんでも覚えさせるという「歴史」、そしてトリッキーなクイズのような大学入試を改めるということと併せて、社会科系は全部必修にしたほうがいいと思う。

邦丸: 日本史、世界史、地理、政治経済、倫理社会。

佐藤: 「現代社会」もいいですね。現代社会の教科書も非常によくできていますよ。日本の高校の教科書って、世界の教科書と比べても、まず記述の間違いがほとんどないですし、レベルが高いんですよ。そして社会に出てから役に立つ内容が多いんですよ。ところが、高校生のときはそれに気づかないんですね。ですから、社会人になってからもう一回教科書を読むと、けっこういいなという感じがします。

邦丸: 日本史にしても世界史にしても歴史というのは事実を教えてもらうということで、そこには何か不純物が混じってはいけないというなかで、たとえば、佐藤さんがご指摘のとおり、ずーっと縄文時代から弥生時代をやっていて、結局3学期になって駆け足で現代史をやっちゃうという時代が続いていましたよね。

佐藤: 私たちの時代はそうでした。だいたい、雪が降っても「縄文式土器は」とか、先生がやっていましたものね。

伊藤: そうでしたよね。世界史ではネアンデルタール人とかね。

佐藤: もう少しそこを工夫して、よく考えてほしいと思うんですよ。

邦丸: 半藤一利さんの昭和史とか、大ベストセラーになりましたけれど、これを読んでいても、え、そんなことがあったのと驚いてしまう。戦前から戦中、戦後にかけてこういう流れがあって今の日本があるんだということが、私なんかは意外とわかっていないんですよ。

伊藤: 私もわかんないです。

邦丸: 佐藤さんが著した『日本国家の神髄―禁書「国体の本義」を読み解く』(産経新聞社)が扶桑社から新書版が出るんですね。その前書きに書かれているんですが、産経新聞社の住田良能・前社長から、こんな歴史書を書いてくれないかという依頼があった。住田さんはこんな話をされたという。

「最近、保守陣営の一部に台頭している思想傾向に私は不安を覚えている。日本のために戦って靖国神社に祀られている英霊を顕彰し、追悼するのは当然のことだ。特攻隊員たちの心情に思いを寄せることも大切だ。しかし、そのことと、あの酷い負け戦を美化することとは全く異なる。あなたには、この境界線がわかると思う。そのことを踏まえた思想書や歴史書を書いてもらえないだろうか」

こういう依頼を佐藤さんが直接受けた。

佐藤: そうなんですよ。『国体の本義』という本は、ほとんど知られていないんですね。というのも終戦後、占領軍が入ってきたときに最初に禁書に指定してしまったからなんです。タイトルを見て、これはとんでもなく悪い本だと決めつけたわけですね。執筆の中心になった橋田邦彦先生という東京帝国大学の医学部の先生は、第一高等学校の校長も務めた人なんですが、GHQに呼ばれた日に、玄関で服毒自殺されたんです。時代の精神に殉じた。

そうしたら、ますます極端な右翼本だろうという感じになっちゃって、封印されていたんだけれど、どうやってヨーロッパやアメリカの歴史を踏まえて日本は近代化していくのか、日本にヨーロッパ的な考え方をどうやって土着化させるか、一生懸命考えているなかなかいい本なんですよ。

今、「行動する保守」という名前で非常に排外主義的な傾向が強まっているなかで、むしろ保守思想のなかから保守思想の問題点を克服できるようなもの。変なレッテル貼りをされているんだけれど、そうじゃないんだということを訴えたくて、この本を書いたんです。

邦丸: その思いというものと近代日本、現代日本のたとえば西洋から受け入れてきた民主主義とか科学的な思考法とか、こういうものといかに調和させるかというのが大事だということですね。

佐藤: そう思います。

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol049(2014年11月26日配信)より