曲がり角に差し掛かる豊かな都市国家・シンガポール(その1)
リー・クワンユーは正しいか?

2014年12月02日(火) 田村 耕太郎
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大器晩成を認めない国

現存する方のなかで私が最も尊敬している人物は、シンガポールの国父、リー・クワンユー氏である。何の資源もない淡路島ほどの小さな島を、50年にも満たない期間で、世界で最も豊かな国の一つに成長させた。しかも、熱帯の蒸し暑い気候から、温帯に属する先進国に比して、国民が働きにくい環境にあるにもかかわらずだ。

これらのハンディキャップを見事に克服し、一人当たりのGDPが世界有数の高さを誇り、世帯当たりで最も富裕層が多い豊かな国を築き上げた。今でも世界一の国際競争力を有する国である。シンガポールがここまで来れたのは、紆余曲折のなかでもぶれることのないリー・クワンユー氏の徹底した現実主義があったからだと思う。

とあるランチで超富裕層の資産管理をやっている個人事業主の方に話を聞いた。「なぜシンガポールがここまで急成長できたか?」ということについてだ。

その方の話によれば、一番の理由は「リークワンユーの冷徹な確率計算とそれに基づく徹底した投資」であるという。つまり、リー氏はとにかく冷徹なエリート優遇策を取り、彼らに徹底的に仕事をさせたのだ。

シンガポールのエリート主義は有名な話だが、大まかに言えば、大器晩成を認めず、「優秀な人材は小学校時の成績から決まっている」という確率論により、小学校低学年の時点でエリートを徹底的に選別し、彼らに留学を含む研修や民間に負けない給料などの形で集中投資をして能力を伸ばし、政府や国営企業で働かせてきたのだ。

リー氏が国民に向けた演説で訴えたことで、当時でも反発はあったろうが、今の時代においては許されないと思われるものもたくさんある。以下に、いくつか紹介したい。

「大卒以上同士だけが結婚して子供をたくさん持て」

「医者が看護婦と結婚すると、三人の子供のうち、二人は凡庸になり、一人だけが優秀になるだろう。医者同士で結婚すれば三人とも優秀になる。だから医者は医者と結婚しなさい」

これらの発言は、日本やアメリカではもちろん許されないが、今のシンガポールでも許されないと思う。




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田村 耕太郎

(たむら・こうたろう) 前参議院議員。エール大学上席研究員、ハーバード大学研究員などを経て、世界で最も多くのノーベル賞受賞者を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で唯一の日本人研究員を務めた。
国立シンガポール大学公共政策大学院名誉顧問、新日本海新聞社取締役東京支社長。
1963年生まれ。早稲田大学卒業、慶応義塾大学大学院修了(MBA取得)。デューク大学ロースクール修了(法学修士)、エール大学大学院修了(経済学修士)、オックスフォード大学上級管理者養成プログラム修了、ハーバード大学ケネディスクール危機管理プログラム修了、スタンフォード大学ビジネススクールEコマースプログラム修了、東京大学EMP修了。
2002年から10年まで参議院議員を務めた間、内閣府大臣政務官(経済財政、金融、再チャレンジ担当)、参議院国土交通委員長などを歴任。
シンガポールの国父リー・クアンユー氏との親交を始め、欧米やインドの政治家、富豪、グローバル企業経営者たちに幅広い人脈を持つ。世界の政治、金融、研究の第一線で戦い続けてきた数少ない日本人の一人。
2014年8月、シンガポールにアジアの地政学リスクを分析するシンクタンク「日本戦略情報機構(JII)」を設立。また、国立シンガポール大学(NUS)リー・クワンユー公共政策大学院の兼任教授に就任し、日本の政府関係者やビジネスリーダーに向けたアジア地政学研修を同校教授陣とともに実施する。
著書に『君に、世界との戦い方を教えよう 「グローバルの覇者をめざす教育」の最前線から』などがある。