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徹底分析 浅川博忠×有馬晴海 いまなら「自民圧勝」?そんなに甘くはありません
真冬の大決戦!「12・14総選挙」を読み切る

浅川 安倍晋三総理は今回の総選挙の勝敗ラインについて「連立与党で過半数」と、かなり慎重な発言をしましたね。

有馬 自民党の内部では「大将なら『単独過半数』と言うのが当たり前なのに情けない」との声が上がっています。実際、安倍総理の会見の翌日には、谷垣禎一幹事長が「自公で270議席」と、総理の梯子を外すような目標を掲げました。

ただ、安倍総理が慎重になるのも無理はない。過去2回の選挙で明らかになったように、小選挙区制は「オセロゲーム」。ひとつきっかけがあれば、一気に流れが変わりますから。

浅川 その意味で注目なのが、総理や閣僚の「失言」です。とくに解散を発表した11月18日から、どうにも総理には焦りが見えますね。

有馬 ええ、余裕が感じられません。会見の日の夜には、テレビ番組に相次いで出演しましたが、「景気回復の実感がない」という市民の声が紹介されると、テレビ局側がコメントする市民を選んでいるのではないか、と疑念を示した。一国の総理の態度ではありません。

浅川 アベノミクスが失敗だったと追及されることを過剰なまでに恐れているように感じますね。安倍総理は、そういう焦りが言葉に出てしまうタイプです。

さらに危ないのが、麻生太郎財務大臣。経済問題が争点となる選挙ですし、ここで存在感を示したいと考えているようですが、いかんせん庶民感覚が決定的に欠けている。

有馬 どんな失言が飛び出るかわかりませんね。

浅川 思い出されるのが、'98年の参院選です。自民党は当初、70議席近く獲得すると見られていました。ところが、恒久減税を巡る当時の橋本龍太郎総理の発言がぶれたことから国民の不信感を招き、わずか44議席と惨敗。橋本総理は退陣に追い込まれました。

もうひとつ気になるのは、総理が「お山の大将」になってしまったのではないかということです。自民党増税派の筆頭格である野田毅氏が公認を外されたという報道には驚きました。たしかに野田氏は「こんな時に選挙をすれば国民にしっぺ返しされる」と発言しましたが、とはいえ公認を外すなどと脅すのは独裁政治です。

有馬 そういった安倍総理の姿勢が国民から「傲慢だ」と見られれば、自民の議席減に拍車がかかるでしょう。

そもそも、閣僚に不祥事が相次いだことを受けて、再度、人事を一新したい。それが今回の解散の狙いの一つでした。それでも、小渕優子氏はあっさり公認されましたね。自民党は、勝てる候補がひとりでも多く欲しいということです。前回の13万票は無理にしろ、まず確実に勝つ小渕氏を外すわけにはいかなかった。

浅川 小渕氏については、辞職が先送りになっただけともいえる。選挙戦に入るので、東京地検当局は政治資金を巡る捜査を中断していますが、終われば再開する。そこでワインなどの寄付行為や政治資金報告書の詳細が明らかになれば、議員辞職に追い込まれる可能性は高い。

有馬 それでも勝ってしまうほど選挙に強い小渕氏に対し、同じ辞任組の、松島みどり氏は落選の危機です。「うちわ問題」をきっかけに、彼女が大臣専用車の変更を求めたり、都内に自宅があるのに議員宿舎に入居していたなど、問題が次々に明らかになった。過去6回のうち2回敗れるなど、もともと選挙には強くないですから、比例復活も難しいかもしれない。

白と黒がひっくり返る

浅川 しかし、安倍総理の解散発表直後は「自民圧勝」と予測するのが現実的でした。野党がまるで準備できていなかったですから。

先日、複数の野党幹部と話したのですが、彼らは10月末から始まった解散報道を「野党へのブラフだと思っていた」と言い、本当に解散すると実感したのは、総理が解散を宣言するわずか1週間前だったといいます。あまりに呑気ですし、対応が遅すぎる。

有馬 野党の仕事は、一日も早く与党を解散させることなのに、この2年間を無駄に過ごしてきた。

浅川 自民党が現有の294議席から、約1割減らして265前後に落ち着く。一方で自民が減らす約30議席が民主に流れ、54議席から85議席程度まで伸びる。それが基軸となる「予測議席数」です。

有馬 ただし、短期間だからこそ、土壇場になったからこそ、協調が一気に進むこともある。実際、ここにきて野党が協調へと動き始めている。そこが選挙の面白いところでもあります。

浅川 協調が完全にうまく行けば、野党合わせて200議席に届く可能性もある。いまのままでは難しいと私は予測していますが、何かきっかけが起これば、わからない。野党でそれだけの議席を獲得すれば、公明党はおそらく31議席を維持するでしょうから、自民党は244議席。議席を50減らすことになりますね。

有馬 いま、日本の無党派層は40%以上です。自民党の支持率は、二十数%でしかない。つまり無党派層が動けば、この国も動くということ。オセロのようにひっくり返ることがあり得る。

浅川 無党派層の受け皿となるべき民主党が、野党第一党としてのプライドを見せて欲しいものです。

有馬 これまでは、民主党と維新の党の足並みは必ずしも揃っていませんでした。「俺は前回3万票取った」「いや、俺は4万だ」などとレベルの低い争いをしている地域もあると聞きますし、維新の橋下徹代表も「民主党は大阪都構想を応援しないから組めない」と言う。

しかし、そんなことを言っている場合ではないでしょう。たとえ8割の意見が合わなくとも、残り2割が合うのなら共闘すべきです。選挙は生き残らなければ話にならないんですから。

浅川 維新の党で言うと、'12年の総選挙では橋下徹・石原慎太郎という東西の二枚看板で躍進しましたが、ふたりは決別してしまった。新しい共同代表の江田憲司氏と石原氏とのネームバリューの差を考えると、42議席から10議席程度減らしてもおかしくない。

有馬 噂される大阪3区で、橋下氏自ら出馬すれば、彼の知名度があれば勝てるでしょう。ですが、松井一郎・大阪府知事が出馬予定の大阪16区で北側一雄・公明党副代表に勝つのは難しい。

さらに、橋下氏が出馬しても、その恩恵で東日本をはじめ他の地域で票が伸びるとは考えにくい。橋下人気に陰りが見えていますし、石原氏とセットでの人気でしたから。山梨の小沢鋭仁幹事長代行も、熊本の松野頼久代表代行も、厳しい戦いが予想されます。

浅川 野党を一本化する仕掛けをできる議員がいないというのも問題ですね。解散前から、小沢一郎・生活の党代表が根回しに奔走していましたが……。

有馬 小沢氏は「自分は外れてもいいから組んでくれ」と言っていたといいます。実際に、生活の党の鈴木克昌幹事長らが民主党に移るという話もあります。

浅川 小沢氏が「この指とまれ」と言っても、もはや誰もついてこない。選挙協力は成ったとはいえますが、それを象徴する動きでしたね。小沢氏自身、自らの選挙区で以前のように圧勝するのは難しいと思います。小沢王国はもうお終いです。

有馬 民主党でいえば、海江田万里代表も苦戦必至ですね。

浅川 そもそも民主党内には、「海江田では来年の統一選は戦えないので、年末には代表から降ろしたい」という声が多かった。前回選挙では比例復活でしたが、今回も小選挙区で勝てないとなると、議員にはなっても代表を降ろされる可能性は高いでしょう。「海江田が代表じゃなければ今回の選挙で100議席は安泰だった」と嘆く議員もいます。

有馬 ただ、自民党への向かい風が、民主党への追い風となればわかりません。国民は前の2回の選挙で「オセロゲーム」に慣れています。「今度は自民を懲らしめないと」と考えてもおかしくない。

とくに注目なのは、北海道と愛知ですね。北海道は経済不振が直撃しており、前回、小選挙区で敗れ比例で復活した民主党の横路孝弘氏や荒井聰氏らが優位に戦いを進めそうです。愛知はそもそも民主党の支持基盤である労組が強い地域ですし、自民党の議員には前回選挙で初当選した1回生が多いですから。

浅川 自民党にとってそれほど甘い選挙にはならない。地方から徐々に火が付けば、安倍総理の焦りはさらに深まるでしょう。

あさかわ・ひろただ/'42年生まれ。政治評論家。民間シンクタンク・産業計画会議研究員を経て独立。著書に『小選挙区制は日本を滅ぼす』『政権交代狂騒曲』他
ありま・はるみ/'58年生まれ。政治評論家。リクルート社勤務、国会議員秘書を経て独立。現在、研究会「隗始塾」を主宰。著書に『「有馬理論」総理大臣になる方法』他
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