【ギャンブル依存症のリアル】(前編)
「まるで覚せい剤のよう・・・」ギャンブルにどっぷりハマった夫婦はいかにして"どん底"から這い上がったのか

田中 紀子

夫はサラリーマンとしても家庭人としても優秀でした。収入も決して少なくなく、優しい人です。冷静になって「もう借金を作らない」といった彼の言葉を信じ「以前の遊び癖が抜けきっていなかっただけ」と自分自身に言い聞かせて、私はなけなしの貯金を崩し、持っていたブランド物をすべて売り払って230万円を用意し、再び借金を清算しました。

「子供ができれば変わるだろう」「家を買えばしっかりするだろう」「子供が二人になれば、いくらなんでも自覚するだろう」---私はその都度その都度、自分に言い訳をして現状を受け入れようとしました。しかし、いつまでたっても夫は変わりませんでした。

2004年2月、もう何度目のことでしょう、200万円を超える借金がまたしても発覚しました。「もう、どうにもならない!」ずっと耐え忍んできた私も、ここでついにお手上げ状態になりました。そりゃあそうです。夫と知り合ってから約10年間で、なんと1,500万円ちかくの借金を尻拭いしていたのですから。

後に「考える会」の活動で知ったことですが、この金額は、ギャンブル依存症患者の家族が補てんした額としては、ほぼ「平均値」でした。そして実は、「家族がお手上げになる」ことが、ギャンブル依存症から抜け出すための第一歩になります。どん底状態に陥ることを、依存症の世界では「Hit the Bottom」といい、そこから這い上がる体験が肝心なのです。

エリートサラリーマンこそ一番危ない

若年層に目を向けてみると、15,6歳の高校生あたりで発症し、万引きや窃盗、恐喝などの犯罪に繋がったり、友人や恋人に手当たり次第カードを作らせ、周囲の人たちを借金漬けにし、20歳になった時点で借金の総額が1,000万円を超えてしまうケースもみつかりました。大学生で発症すると、ほとんどの場合、留年や中退に繋がっているようです。

「競馬や競輪にハマるのはお金がない人の現実逃避では?」---世間ではそんな誤解もありますが、むしろ一番危ないのが金融やマスコミ、公務員といった給与水準の高い「エリートサラリーマン」なのです。

年収3,000万円クラスになると、日々の生活がなんとか回ってしまうので、気が付いたときには借金総額が3億円にのぼっていたという事例もあります。私自身が受けた相談では、ご主人の年収が2,500万円もあるのに家族には1銭も渡せず、奥さんの月8万円のパート収入で生活をやりくりしているケースもありました。

今年に入り、電通の社員が1億円を横領した事件や、ベネッセの個人情報漏えい事件など、ギャンブルによる借金が動機となった事件が世間を騒がせました。過去には、青森県の武富士放火殺人事件や、宇都宮の宝石店従業員5人殺害事件など、悲惨な殺人事件も起きています。こうした事件を巡り、ギャンブル依存症との関連を指摘する意見もあります。

新聞に載らないような小さな横領事件、貧困による児童虐待などは、それこそ毎日いたるところで起きています。

日本はこれまで、ギャンブル依存症という"病"に対して無理解かつ無策でした。けれども、このまま何も対策を取らず放置し続ければ、大きな社会損失となるのではないでしょうか。