いま「安倍政権の暴走」が起きている!
元経産官僚の古賀茂明氏と津田塾大学教授の萱野稔人氏の緊急対談から【後編】

元経産官僚・古賀茂明氏と津田塾大学教授・萱野稔人氏の対談「国家の暴走~安倍政権の世論操作術」の後半。安倍政権の雇用・経済政策について、そして、気になる世論操作術とは――。(2014年9月29日収録)

 ⇒【前編】はこちらからご覧いただけます。

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「第三の矢」が消滅し“国家の暴走”がはじまった

萱野: つづいて、安倍政権の雇用、経済政策についてはどうですか? デフレ脱却から金融緩和、そして大胆な財政政策を行い、景気を安定化させる目標を掲げていますよね。これで日本経済が良くなれば、我々はあまり心配することもないのかなという気もします。

古賀: 大胆な金融緩和から始まり、株高と円安でスタートは良かったですよね。2013年の秋の臨時国会は「成長戦略国会」と銘打たれていましたが、でも蓋を開けてみれば、アベノミクスの「第三の矢」はどこかへ消えていました。そうこうしているうちに日本版NSC法が成立し、“暴走”が始まってしまったんですね。

雇用政策に関して言えば、「やったやった」と安倍さんが言う割に中身がないというのが私の評価です。安倍政権の経済政策では、株価対策のウエイトが非常に大きいですね。株価を上げることで「景気が良くなっている」という雰囲気を作ることを重視しているからです。

萱野: 株価が大幅に下がったときは、安倍政権はどうなるかわかりませんね。

古賀: 非常に危ないですね。だから株価を維持したい。そのために、海外の投資家の目を気にせざるをえないという流れになっています。

萱野: 海外からの投資を呼び込むために、投資の収益率が高くなることを示さなければならないんですね。

古賀: その通りです。海外の投資家からは「法人税の減税」と「雇用市場の改革」を求める声が常に上がっているので、政府は経済界からウケる雇用政策をさまざまに打ち出しています。そのひとつが「雇用の流動性を高める」というものですね。

安倍政権は、「どんどん会社を移ってスキルアップするのが新しい働き方だ」と言っていますが、単に労働者があちこちに移動すればそれでいいというわけではありません。高い付加価値を生む産業に労働者が移ることで経済全体の成長が高まり、労働者自身も給料を含めてより良い労働条件を確保することが実現されなければ意味がないのです。「流動化」だけを推し進めていくと、労働者がクビを切られやすい方向に行ってしまう懸念もある。

萱野: そうなると、相対的に賃金が下がり、購買力も落ちてモノが売れなくなる可能性も出てきますね。

古賀: 今は表向きでは賃金がちょっと上がったという話になっていますが、それ以上に物価が上がったので実質的な購買力は下がってしまっています。安倍政権の説明では、もう少しすれば賃金は上がるという話なんですが。

萱野: 物価の上昇に比べて、賃金が上がるスピードは遅いからもう少し待ってくれ、ということなんですよね。「円安で日本の企業が儲かる」という算段のようですが、円安についてはどうですか? 元経産省の専門家として、どう見ていらっしゃいますか。

古賀: 通貨が安くなるということは、日本にあるものすべての価値が下がるということですから、基本的にはそんなにいいことではないと思っています。輸出企業は、同じものを同じコストで日本で作った場合、何も努力しないでも利益が増えますが、その利益が下請けにも回るかと言ったらそうはいかない。それに、輸出と関係ない企業はもちろんコストアップですから、結局利益は一部に偏ってしまうんです。

萱野: 公共事業が民間を圧迫しているという問題もあります。

古賀: はい。これも非常に問題ですね。「第二の矢」である「機動的な財政出動」で公共事業の壮大なバラマキが始まり、建設バブルに沸きましたが、人手不足による人件費の高騰、円安による資材や燃料費の高騰もあり、建設業界の供給力はもう限界にきています。それなのにまだ工事を増やそうとするからコストが上がり、そのあおりで民間の設備投資が抑制され、「官が民の成長を止める」という“暴走”にもつながっています。災害復興は最優先にして、それ以外は公共事業を減らしたほうが景気対策としては有効だと私は思いますよ。