銀幕のスター・高倉健が主演した唯一の連続ドラマ『あにき』の奥深い味わい
TBSオンデマンドより

先日、83年の生涯を閉じた銀幕のスター・高倉健さんは、205本の映画に出演したが、テレビ界における連続ドラマの主演作はTBS『あにき』(1977年10月~12月)しかない。脚本は倉本聰氏。二人の間に確かな信頼関係があったことから実現した。

視聴率は平凡だったが、珠玉の作品である。放送終了から37年が過ぎているが、少しも色褪せていない。地上波やBS、CSでの再放送は予定がないが、各種のオンデマンド動画サービスで見ることが出来る。健さんや倉本作品のファンはもちろん、そうでない人にも、ぜひ見ていただきたい。

自分の作品を冷静に批評したことで知られる生前の健さん自身、「思い入れの強い作品」と語っている。昭和を代表する名優が主演した、昭和で最高水準のドラマだと思う。46歳の男盛りだった健さんの名演を、たっぷりと目にすることが出来る。

みんなに頼られるが、誰にも頼れない"あにき"

『あにき』で健さんが演じた主人公は神山栄次。東京・人形町で鳶の頭を務めている。義理を重んじるが、情けも厚い。このため、その狭間で葛藤することもある。健さんらしい役柄だ。

栄次は両親を早くに亡くし、妻にも先立たれ、妹・かい (故・大原麗子さん)と二人暮らし。栄次は人一倍、妹思いだ。だから、『あにき』なのだが、田中邦衛や小林稔侍らが扮した鳶の子分たちにとっての『あにき』でもあり、地域の住民たちに頼られる『あにき』でもあった。しかし、栄次自身は誰にもすがれず、弱さも見せられないので、人知れず孤独を抱えていた。

栄次は無学だが、気高く、曲がったことが大嫌い。暮らしは地味で、楽しみと言えば、将棋と酒くらい。妹や子分たちに囲まれ、平穏な日々を送っていた。

ところが、望みもしない騒動の渦中に置かれる。自分の家も含めて、地域の土地のすべてを所有していた「岡村商会」の主人が急死したため、地域一帯の立ち退き問題が浮上するのだ。

栄次は岡村に恩を感じているので、義理を重んじて立ち退くのが筋だと考える。岡村は多額の負債を抱えていたため、立ち退かないと債権が焦げ付き、善意の人たちに迷惑が掛かかってしまう。

反面、立ち退くとなれば、自分と妹はもちろん、子分の鳶や近所の住民たちは住む家を失う。債権者たちから住民の説得を依頼された栄次は、義理と人情の板挟みになる。

妹のことでも心が乱れ始める。早く良い伴侶を見つけてやりたいのだが、妹が嫁げば自分は一人ぼっちになってしまう。どこへも行かせたくない気持ちもある。だが、そんな自分の弱い部分は妹や周囲に決して見せられない。

現実的には妹を嫁がせなくてはならないことは分かっている。けれど、不幸な結婚はさせたくない。そのため、妹の男性関係に過干渉となってしまい、強く反発される。栄次はそれが淋しい。

周囲から頼られることによる苦悩も付きまとう。栄次は岡村の忘れ形見・恵子(秋吉久美子)の面倒も見るのだが、恵子は物心両面で栄次に甘えた上、やがて栄次に愛の告白までする。20歳以上も年下の恵子による求愛は栄次にとって厄介の種でしかない。だが、岡村の死によって天涯孤独の身になった恵子を見捨てることも出来ない。

しかも、栄次自身、恵子に愛情めいた思いを抱き始めてしまう。道ならぬ恋であることは分かっているが、情が移ってしまう。だが、恵子は奔放であり、栄次の純情を何度も踏みにじる。栄次に愛を打ち明けながら、別の男性と不倫するのだ。

栄次にとって、唯一の相談相手は、幼なじみで小料理屋の女将・桐子(倍賞千恵子)だった。だが、桐子は愛人に捨てられたことから、自死を遂げてしまう。栄次の孤独は深まるばかり。しかし、誰にも頼れない。『あにき』なのだから---。

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