読書人の雑誌『本』
子どもの頃に読みたかった本---『調べてみよう、書いてみよう』著・最相葉月

年に二度、小倉に通うようになって6年になる。北九州市子どもノンフィクション文学賞の選考会と表彰式に出席するためだ。

2009年に賞の創設が決まって審査員を依頼された時、ノンフィクションの裾野を広げることができるならばと考えて引き受けた、というのは半分建前で、実はライターになる前に同市の自分史文学賞に応募したことがあって懐かしく、ご縁を感じたからである。私が初めて取材テーマにした競輪の発祥地が小倉であることも大きかった。

事務局の方々はとても熱心だった。炭鉱が閉山してからというもの、市には特筆する産業がなくなって人口の流出が進んだ。なんとか起死回生を図りたいと考えたところ、北九州市は明治期に森鷗外が小倉に着任して以降、杉田久女、林芙美子、火野葦平、松本清張といった作家を輩出し、同人誌活動も盛んだったことに目が留まった。

そこで1990年に自分史文学賞を創設、以来20年を経て一定の役割を果たすことができたので、次は小中学生向けの文学賞をつくることになったという。IT技術が急速に進み、仮想空間と現実を混同する子どもが増えている今、見たり、聞いたり、体験したりしたことを言葉にする作業は生きる力につながる。佐木隆三さんがこの文学賞を取りまとめる北九州市立文学館の館長だったことや他に類のない賞であることも、ノンフィクションに的を絞る背景にあったようだ。

職員が九州や首都圏を中心に学校まわりをして応募を呼びかけた結果、第一回の応募総数は一千通をはるかに超えた。これまでに祖父母の戦争体験や昆虫の観察記録、町に語り継がれている伝説や地域医療に取り組む医師の話、中にはいじめや肉親の自殺をテーマにした胸の締め付けられるような作品もあった。

船戸与一さんが小学館ノンフィクション大賞の選考委員だった頃、ノンフィクションはどんなつたない作品でも一つは自分が知らないことがあるからおもしろいとおっしゃっていたが、本当にその通りだと思った。

子どもたちの作品で初めて知ったことはたくさんある。東京大空襲の犠牲者が地下鉄銀座線で運ばれたこと、鉄の町と呼ばれた八幡市(現北九州市)を襲ったB29による本土初大空襲の犠牲者の話、公害で汚染された洞海湾が美しく甦るまでの経緯など、子どもたちの手でさまざまな事実が明らかになっていくことに感動を覚えた。

あわよくばノンフィクションの読者を増やしたいという私の考えはなんと自分本位で浅はかだったか。先生や親が少しだけ背中を押してあげれば小学生でも読者の胸を打つ作品を書ける。埋もれた人やものに光を当て、誰も知らない史実を掘り起こすことができるのである。

考えてみれば、今の十代の中には曾祖父母が存命という子どもたちがいる。もし全国の十代が総出で家族のライフヒストリーを聞きとることができるなら、それはこの国にとってかけがえのない文化遺産になる。子どもが何に興味をもち、何に悲しみ、何に感動するかを知ることは、大人にとっても大きな学びになる。

幸いなことに、昨今の学校教育では調べ学習といって、自分でテーマを決めて調べたことを発表する活動が盛んだ。これをもう一歩先に進めて文章にすることができれば、より多くの人に伝えることができる。ただ近くに熱心な先生や親がいない子どもには、まだまだハードルが高い作業である。そこで、テーマの見つけ方や調べものの仕方、文章の書き方など、作品を書き上げるまでに必要な基本的な方法を紹介しようと思って書いたのが、『調べてみよう 書いてみよう』である。

子どもノンフィクション文学賞を受賞した4人の小中学生にサポーターになってもらい、彼らへのインタビューや作品を引用しながら解説していく実践的な内容にした。大人向けの本なら一行で済むことを表現を変えて繰り返したりたとえ話を駆使したりと、児童書づくりは初体験の私には苦労するところもあったが、もし自分が子どもの頃にこんな本を読んでいたら、少なくとも今ほど執筆にもたもたすることはなかったろうなあと思える本には仕上げたつもりだ。

私は作文が大嫌いで、読書感想文を提出しなさい、夏休みの思い出を書きなさいといわれても、原稿用紙の前で頭を抱えてうんうん唸っていた口である。そんな人間がなぜ今の職業に就けたのか、という理由もたぶんわかってもらえるはずである。

(さいしょう・はづき ノンフィクションライター)
読書人の雑誌「本」2014年12月号より

最相葉月(さいしょう・はづき)
ノンフィクションライター。1963年兵庫県出身。関西学院大学法学部卒業。
おもな著書に『絶対音感』(小学館ノンフィクション大賞)、『星新一―一〇〇一話をつくった人』(講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞、日本推理作家協会賞、日本SF大賞、星雲賞)、『青いバラ』『ビヨンド・エジソン』『心のケア 阪神淡路大震災から東北へ』『セラピスト』などがある。2010年より「北九州市子どもノンフィクション文学賞」の審査員(ほかに、那須正幹氏、佐木隆三氏、リリー・フランキー氏)を務めている。


 

最相葉月・著
『調べてみよう、書いてみよう』
定価:1,200円(税別)

『絶対音感』の最相葉月氏による、子どものための文章教室。テーマの決め方、調べ方、文章の書き方の極意がわかる調べ学習の必読書。

 => Amazonはこちら
 => 
楽天ブックスはこちら