社長の風景

仕事はゲームのようなもの。目標を見定め、作戦を立てる。成否の8割方は、作戦で決まると思っています。

セーレン 結川孝一

2014年11月20日(木)
週刊現代
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事業領域を柔軟に時代に合わせ、進化してきた企業だ。福井県に本拠を置く繊維大手・セーレン。1889年に京越組として創業して以来、125年の歴史を持ち、現在はカーインテリア、住宅の資材、IT素材などへと事業領域を拡大している。社長は結川孝一氏(66歳)。技術者として入社し、営業でも実績を残した叩き上げの人物だ。

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ゆいかわ・こういち/'48年、福井県生まれ。'71年に金沢大学工学部を卒業後、セーレン(当時は福井精練加工)へ入社。'96年にビスコテックス事業部長へ就任後、中国の関連会社・世聯汽車内飾(蘇州)有限公司会長、米国のViscotec World Design Center, LLC社長などを経て、'11年に代表取締役副社長就任、'14年より現職 ※セーレンのwebサイトはこちら

鮮やかに

'90年代からスキーウエアが色鮮やかになっていますよね。その多くは弊社の『ビスコテックス』というシステムを使ったものです。それまで、生地のデザインは昔の印刷のように色ごとに謄写版を作り一色ずつプリントしていたため、納期が遅く、色彩も最大で13色程度でした。一方、ビスコテックスはインクジェットプリンターの要領で、繊維をインクで染めるから、謄写版をつくる必要がなく、納期が早い。しかも色彩はフルカラー1677万色。デジカメの写真も、そのまま生地にできますよ。

デジタル化

技術者として入社し、化学繊維や色彩の研究をしていました。当時は、生地を目標とする色にするために、熟練技術者が「少し黄色の染料を足そう」などと、レシピを勘で決めていました。そこで弊社は、色彩をコンピューターで分析し、正しいレシピを一発で出せるシステムをつくった。私もそれに関わっていました。私はすべてが欠乏していた団塊の世代の生まれだからかもしれませんが、どんな困難なことでも成し遂げたいという思いがあったのです。

山頂にて

学生の頃、山登りが好きでした。重い荷物を担ぎ、急坂を登っているときは「なぜこんな辛いことを」と嘆きたくもなるのですが、頂上へ着くと「もう下界に降りたくない」と思う。「達成感」を味わおうとすると執念が必要で、執念で物事を成し遂げているうちに「やってできないことはない」と思うようになる。若者のモチベーションを高めるポイントも、この「達成感」にあると思います。

ロシア 海外研修時、サンクトペテルブルクのネヴァ川のほとりでギターを弾いていた若者と友達になり日ロ交流。右から3人目が結川氏

人を見る目

営業に異動したのは37歳のときです。川田達男社長(現会長)が工場へ来られ、初対面の私に「営業へ出てきなさい」と言うのです。周囲から営業に向いていると言われたことはありますが、私の夢は、工場長でしたから、思わず「技術者としての15年間を否定するんですか!?」と言いました。営業に行ってからは、弊社が企画販売の仕事を始めたばかりだったため、お客様はおらず、商品もなし。しかも当時の私は「手形」という言葉の意味すらも知らなかったのです。3ヵ月ほど、神田のガード下の映画館で過ごしました(笑)。

そんな中、福井県出身の社長さんを探し「初めて商売をするのですが」と訪ねて、千葉県の大きなお寺さんのお守り袋を発注していただきました。その後、技術者でも営業でも、仕事はゲームのようなものだと感じました。目標を見定め、そこへと至る作戦を立て、実現するのです。そして、成否の8割方は作戦で決まる・・・・・・。次第に営業が面白くなってくると、川田社長が笑いながら「そろそろ(技術者に)戻るか?」と言うじゃないですか。「勘弁してください」と頭をかきました(苦笑)。

ポジティブ

私は運がいいんです。川田会長を始め、いつも周囲の方に恵まれる。新入社員の時の上司は厳しい方で、書類に小さな不備があっただけで、赤鉛筆で訂正し、書類を使えなくしてしまう。パソコンもない時代だから、一から書き直しですよ。またあるときは、別の上司から、工場で働く社員に転勤を指示するよう言われた。私が話すとみんな反発するのですが、その上司が話しに行くと、なぜいま転勤が必要なのかを一から説き、みんなを納得させてしまった。

学生時代登山が好きで北アルプスなどをよく登った。生きるために大切なことを山から学んだ。写真左が結川氏

場創出

事業の水平統合・垂直統合(製品を供給するために必要な業務や生産工程を社内に取り込み、事業範囲を拡大すること)にこだわっています。弊社は染色のインクも糸も生地も自社製。生産設備・ソフトまで自社で作っています。何か技術を進化させたいとき、すべて自社で製造していなければできないことが多いからです。さらに、商品の企画から販売まで自社で行っています。このこだわりにより技術の応用範囲が広がり、事業領域も拡大します。この結果、自動車のシート、住宅の外壁などにも弊社の技術を応用でき、大きな市場を得ることができました。すなわちこれらはバリュープロポジション(お客様が望み、自社だけが提供できる)商品です。

新概念

経営に「個衆」という概念を持ち込んでいます。たとえば自動車でも、現在は、ドアやシートの色を選べるものが売れています。これと同様に、いまはどの分野でも「あなただけのもの」を「コストや納期を変えず大量生産する」技術が求められていると思っています。

「個衆」の最たるものが『ビスコテックス』です。1着つくっても、10着つくってもコストはほぼ同じ。すぐできるから在庫もかかえなくていい。ファッション業界では、商品の値段の数十%が在庫処分の費用なのです。ビスコテックスを活用すれば、お客様へよりよいものを安く届けられます。しかも処分が少なく、エコなのです。

セリシン

いまは化粧品の分野にも進出しているんですよ。蚕の糸を取り囲む『セリシン』というシルク蛋白質があります。蚕のさなぎを守っている物質だから、保湿や抗酸化作用など様々な働きがあり、たとえば摘出した臓器をセリシンの液につけておくと劣化が抑えられ、いまはiPS細胞の凍結保存液にも使われています。また、マウスでの実験段階ですが、皮膚がんの発がんを抑制する効果も報告されています。125年の技術にかけて、これからも、他社にできないことをやっていきますよ。

(取材・文/夏目幸明)
『週刊現代』2014年11月29日号より

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日本一、社長を取材している記者・夏目幸明の取材後記

現在、セーレンはIT分野にも進出している。電磁波ノイズを抑える繊維が、スマートフォンにも入っているのだ。また、電気自動車の大容量バッテリーから出る電磁波を抑える用途でも、同じ商品が使われている。研究、製造、販売など、組み合わせたときに何らかのシナジーがある場合は、すべて自社でやる。それだけでなく、この「垂直統合」を昭和の昔から意識的に続けてきたことが同社の凄みだろう。


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