森川富昭・村上憲郎・Tehuが語るデータサイエンスの未来~なぜ、日本企業は"今ある情報"をお金に変えられないのか?
Tehu氏、森川富昭氏、村上憲郎氏

ビッグデータ、データサイエンス、ディープラーニング……最近のビジネスシーンで引き合いにされるキーワードの多くはIT、データに関連したものが目立つ。しかし実際の職場を見ていると、膨大な紙のアンケート用紙を集計しているスタッフの姿は変わらない。どうして日本企業におけるビックデータの活用は進まないのだろうか。

この点に危機意識を持った慶應義塾大学 政策・メディア研究科准教授 森川富昭氏は、データサイエンティストとして成長していくあるビジネスマンの姿を通じ、ビッグデータとの向き合い方の基本を描いた『ビジネスを動かす情報の錬金術』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓した。

今回、森川氏のもとに、元グーグル米国本社副社長兼グーグル日本法人代表取締役社長の村上 憲郎氏、そして高校時代から「天才クリエイター」と呼ばれ、現在慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に通うTehu氏が集い、「データサイエンスの未来」をテーマに鼎談を行った。森川氏のアカデミアからの視点、村上氏の実務家としての実感、さらに二人とはまったく違う世代に生きるTehu氏の視点から、日本企業のデータ活用の今とこれからを考察する。(文・森旭彦)

ビッグデータ×ディープラーニングが可能にする次世代のマーケティング

森川 私はビジネスにおいて、顧客データなどを積極的に利活用することを、教育者として伝え、推進しています。世界に目を向けた時、今やデータを活かしてビジネスを組み立てていくことは当たり前になりつつあり、ビジネスパーソンはデータサイエンティストとしての素養を身につける必要があります。今日はこれからの日本のビジネスシーンは、どのようにデータと向き合っていけばいいのかについてお話できればと思います。

村上 まず「ビッグデータ」では、既存のデータベースの上にあるデータを、ビッグでなくて、スモールであっても、いかにうまく扱うかが大切だと私は思います。つまり、適切な統計処理を行ってビジネスに活かすということです。これを、私は、ビッグデータ1.0と呼んでいます。

次に大切なのは、いよいよ、データの量が、ビッグと呼んでも良いサイズになってきたら、Hadoopといった、ビッグなデータを効率よく処理する手法を使うことです。この段階を、私は、ビッグデータ1.5と呼んでいます。しかし、最も大切なのは、その次の段階である、「ディープラーニング」、最先端のAI技術である、ニューラルネットワーク技術の活用です。私が、ビッグデータ2.0と呼んでいる段階です。この二つの段階をいかにクリアしていけるかが、データを使った錬金術のキモだと思います。

森川 ディープラーニングでは今、人の「振る舞い」のデータをいかに取っていくかが世界では注目されていますね。

村上 流通業界では「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」という言い方がされています。つまり、サイバー側から、サイバーの外側、つまり、リアルな世界へ進出する施策のことですね。その上で重要になるのが人の振る舞いのデータです。しかしこれは、「O2O(オフライン・トゥ・オンライン)」と読むことも出来ます。つまり、サイバーネット内側から、サイバーネットの外側、つまり、リアルな世界へ進出を逆手に取る戦術、サイバーネットの外側、つまり、リアルな世界が、サイバーネット内側の技術を逆手に取る戦術です。

消費者が実店舗に足を運ぶ時、今や誰でもスマートフォンを持っています。そこで、消費者に事前にアプリケーションを特典付き等でダウンロードさせておけば、超音波やWiFiやNFCタグとかを使い、店内のどこにいるかのデータを詳細に把握することができます。もし、ある消費者が同じ商品の前で長時間滞留していたら、購入を迷っていることが分かります。その消費者にスマートフォンを通してディスカウントを提案すれば、購買を促すことができるでしょう。さらに、もしもその人が別の店舗でも同じ商品の前で長時間滞留してたとすれば、「買いたいけれど買えない」理由があることが分かります。そこでディープラーニングの技術を使い、その人のオンラインショップでの購買傾向やSNSでの特性を照らし合わせ、より良い商品や支払手段をレコメンドすれば、購買を促すことが可能になります。

森川 世界から見ればそうした流れは未来の出来事ではなく、極めて自然な成り行きですよね。今でも顧客ニーズを調べるために紙のアンケートを取っている日本のリテール界をはじめとした企業のIT化は、非常に遅れていると言わざるを得ません。日本でサプライチェーン・マネジメントを効率的にIT化できているところはあまり多くはありません。まさに日本のビジネスの弱点はデータの利活用です。

村上  とくにオフラインに実店舗を持つ小売業が、オンラインから攻めこんでくるAmazonなどに対抗するためには、まさにO2O(オフライン・トゥ・オンライン)の情報武装が不可欠でしょう。ゆくゆくはO2O(オフライン・トゥ・オンライン)を、消費者のテレビの嗜好や日常で触れている情報、休日の過ごし方などの振る舞いの情報を関連付けるディープラーニング、そして、得られたビッグデータをいかに分析して利活用するかが、差別化において大きなポイントになってくるでしょう。

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