千葉に出現したトドに謎の傷跡つけた
「ダルマザメ」共生するプレデター驚異の捕食術

漂着したトドが保護されたというニュースを見た人も多いかもしれない。

11月2日頃、千葉県の九十九里浜にメスのトドが漂着した。口元に掛かってしまったのだろう、そこから垂れる釣り糸も、なんとも痛ましい。

あるニュースによれば、この場所でトドが発見されることは非常に稀なことだという。本来ならば、この時期は北海道南部へ南下するのだが、「なんらかの理由で親潮に流されて千葉まで流れ着いてしまったのではないか。現在は鴨川シーワールドが保護をしており、経過観察中」とのことだ。

さて、本題に入ろう。今回はトドについて語るのではない。注目して欲しいのはトドの身体にあった傷だ。首元から身体の左側面に3ヵ所、お腹側1ヵ所ある、5~10cmくらいのまん丸くえぐられたような傷跡があったことに気がついただろうか。

これはセイウチと闘ってできたのか、はたまたシャチに襲われそうになったのか、寄生虫がいるのか、それとも何かの感染症か---これらはいずれも不正解。

実はこれ、「ダルマザメ」というサメの仕業であるのだ。

ダルマザメ(写真提供:坂本衣里)

小さくてまん丸い噛み跡に見る捕食行動

え?あれがサメの噛み跡?それにしては小さ過ぎるし、切り口がまん丸いのはおかしいのではないか。そう思われるかもしれない。

ダルマザメは40~50cmくらいの小型のサメ。深海性のサメと言われているが、水深85mでの採捕記録もあるので、エサを求めて浅い海域にも現れるようだ。顔つきはスーパーマリオブラザーズのゲームなどに出てくる砲弾キャラクターの「キラー」に似ていて愛嬌がある。たらこ唇もかわいらしい。英名にはクッキーカッターシャークというこれまた愛らしい名前がついている。これは、かれらの食べた跡が、まるでクッキーの型抜きをしたようにきれいな形だからだ。

裏側から見たダルマザメの顎。上を向いている機能歯の他に、待機している歯が3列見える

このダルマザメの噛み跡が、イメージするサメの噛み跡と違うのは、かれらの歯の形に起因する。多くのサメは上顎と下顎の歯の形が似ていることが多いが、かれらはまったく違う。上顎は針先のような極めて繊細な歯が無秩序に生えているように見える一方で、下顎には二等辺三角形の歯が整列して並んでおり、下顎全体はギザギザしたノコギリのような力強さを感じさせる。

では、この顎をどうやって使って捕食しているのか。

まず、上顎にある針状の歯を獲物にひっかける。次に下顎のギザギザの歯を突き立てる。そして、濃厚なキスをするように唇をぴったり獲物の皮膚にくっつける。ここからが面白い。なんと、舌を後ろに引っ張って口腔内を真空状態にすることができるのだ。仲谷一宏著『サメー海の王者たちー』によれば、「舌を後ろに引く筋肉があるのだが、ダルマザメの筋肉はほかのサメと違って特大、しかも何と腹筋につながっている」という。かれらはサメの中でも極めて特殊な捕食行動を行なうのだ。

ダルマザメはたらこ唇(写真提供:坂本衣里)

小笠原諸島周辺の海で、いつもと違う激しいジャンプを繰り返しているイルカが目撃されたことがある。それをよくみると、イルカの体表にダルマザメがかぶりついていたという。一度、噛み付くと、獲物がどんなにあばれようが、ダルマザメはお構いなし。吸盤のように吸い付きながら、身体をぐるんと回転させ、下顎にあるノコギリ状の歯列を使って、まるでアイスクリームをすくうスプーンのように、ぐりっと美しいまん丸にえぐりとるというわけだ。

ダルマザメが漁獲されることは非常に稀で、かれらの歯形がついた生物を目にすることがあっても、生きているダルマザメを見たことがある人はほとんどいない。以前に、東海大学の実習船でプランクトンネットにひっかかってダルマザメが漁獲されたことがあった。それに携わった学生によれば、甲板の上にあげられたダルマザメは油っぽくべとついていて、いつまでもクネクネと身体を回転させるといった珍奇な動きをみせたという。

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