オックスブリッジで鍛えられた、英国社会で役立つ「blagging(ごまかす)」力

クライストチャーチで仲良くなった大親友と、卒業式にて。
加藤麻理子(かとうまりこ)
1984年東京都生まれ。6歳で渡英、2006年オックスフォード大学英語英文学部卒業、2008年同大学院比較国際教育学部にて修士号取得。その後英文ジャーナリストの道を選択、東京のジャパンタイムズ新聞社にて報道記者、ロンドンのレッドウッド出版社にて雑誌編集者を務める。オックスフォードで知り合ったイギリス人の夫と2011年に結婚、現在夫の仕事で北京在住、Time Out誌Family版の編集長を務めている。

私は小学1年の夏休みに父の海外赴任で渡英した。現地校に通い、幸い自然にネイティブ英語が身につき、友達はイギリス人がほとんどだった。家を一歩出ればアイデンティティーは全くイギリス人、あまりにイギリス人社会に溶け込んでしまったため、オックスフォードに進学して初対面の人に「ドゥー・ユー・スピーク・イングリッシュ?」と声をかけられた時、 自分が日本人の顔をしていることを久しぶりに思い出して驚いたのを覚えている。

そんな私のオックスフォードでの一番の悔いは、日本人学生の集まりにあまり入っていかなかったことであるが、その分イギリス人をさらに深く知る機会となった。特に私のカレッジ、クライストチャーチはエリート高校出身のイギリス人が多く、英語英文学専攻の同級生も皆イギリス人という、どこを見ても誰と話してもイギリス人という生活が3年続いた。また夫がケンブリッジ大学を卒業してオックスフォードの大学院に進んだこともあって、 現在夫のつながりで知り合う人もオックスブリッジ卒のイギリス人が多い。

このようにオックスブリッジ卒のイギリス人と長く時間を過ごしてきた中で得た、オックスブリッジに対するイギリス社会の評価、オックスブリッジ卒の人の社会での位置づけなどについての私なりの理解を書いてみようと思う。それは、簡単にいうと複雑である。

イギリス人は、オックスブリッジ卒ということを隠す

オックスブリッジは、イギリスでも日本同様、尊敬憧憬を集めるが、 その裏には様々な感情が隠れている。例えば、オックスブリッジ卒のイギリス人はオックスブリッジ卒以外の人と会話する際に、オックスブリッジ卒と言うことをなるべく控える。それは、イギリス人は威張るのが嫌い、さらにエリートなものに内心憧れながらも表向きには嫌うからである。オックスブリッジの人間は合格したときも自慢は親に任せ、卒業後もカレッジの紋章が入ったセーターやスカーフは絶対身につけない、初対面の人との会話では大学の名前は直接聞かれるまで言わない。大学名を口にした途端、「へえ、オックスフォードねえ」と皮肉っぽく言われ、 気まずくなってしまうからである。 反対に、そんな状況を恐れて、相手は何とも思っていないのに下手にごまかそうとすると、かえってもったいぶっているように聞こえてしまうこともあるから厄介である。

もちろん、これはイギリス人持ち前の「謙虚な態度」で、本心では別に謙虚に思ってはいない。他人に素直に褒めてもらえなくてもしょうがない、オックスブリッジという誇りを静かに胸の内に潜め、同じオックスブリッジ卒の人と出会ったときには、同じ経験をしてきた者同士、それだけで少し分かち合えるような気持ちになる―オックスブリッジ卒のイギリス人はそんな生き物である。