IBMが開発したクイズ王「ワトソン」はビジネスに使えるか?

2014年11月13日(木) 小林 雅一
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これを受け、既に米国ではニューヨークにある癌治療専門の病院、ユーザーに健康情報を提供するベンチャー企業、さらに旅行会社などがワトソンを業務に導入したり、ワトソンを使ったアプリやサービスの開発に乗り出している。

日本企業もワトソンに関心を示している。今年10月、IBMが「ワトソンの多言語化の一環として、日本語対応基盤をソフトバンクと共同開発中」と明かしたのに続き、つい先日はみずほ銀行と日本IBMが「ワトソンを来年中に銀行のコールセンター業務に導入したい」とする計画を発表した。

みずほ銀行の場合、コールセンター業務を丸ごとワトソンに任せるというより、電話オペレーターが利用者からの質問に答える際、ワトソンを利用して必要な情報を検索するといった「人と機械との共同作業」を考えているようだ。

ワトソンの生い立ち

ただし問題はワトソンが本当にそうした本格的仕事に使えるのか、という点だろう。ワトソンは元々、「ジョパディ(Jeorpady)」という米国の人気クイズ番組に出演し、人間の歴代チャンピオンと対戦して勝つために開発された。ここが非常に気になるところだ。つまり本来、何らかのビジネスやAIの基礎研究などを念頭に開発されたマシンをたまたまクイズに応用したのではなく、最初からクイズ番組で勝つことだけを目標に開発されたマシンなのだ。

IBM 奇跡の"ワトソン"プロジェクト 人工知能はクイズ王の夢をみる』(スティーブン・ベイカー、早川書房)という本を読むと、その様子がよく分かる。

IBMの研究所が「ワトソン」プロジェクトを検討し始めた2004年頃、彼らがやろうとしたのはコンピュータ科学やAI研究に新境地を切り開こうということではなかった。むしろビッグデータ時代におけるIBMの技術力を世間にPRすることが、「最大の」と言うより「唯一の」目的だった(当時は「ビッグデータ」という言葉はまだ生まれていなかったと思うが、そういう呼称はなくても実際にはインターネット上に確かにビッグデータはあったわけだ)。

つまりインターネット上に大量に存在するドキュメント等、普通の言葉で書かれた文章をコンピュータが理解して何らかの答えを出してくれたら、「IBMはビッグデータ時代をリードしている」という強い印象を世間に与えることができる。だから人間の言葉を理解し、学習能力も備えた特殊なコンピュータを作り、これを人気クイズ番組に出演させて注目を浴びようとしたのだ。

結果、ワトソンは最初からエレガントに統一された設計思想に基づいて開発されたというより、この時点で使えそうな様々なAI技術---「ルールベースのAI」から「確率統計的な推論技術」、さらには「ニューラルネット」や「遺伝的アルゴリズム」等々---を掻き集めて作られたAIコンピュータになった。つまり「何でもいいからクイズ番組で勝って注目を浴びろ」という号令の下に開発された、極めて特殊なコンピュータなのだ。

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