ネットでヘイトスピーチを垂れ流し続ける 中年ネトウヨ「ヨーゲン」(57歳)の哀しすぎる正体【後編】

2014年11月18日(火) 安田浩一
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面前では何も言えない男

しかしヨーゲンは私が来意を告げようとしてもそれを無視し、ひたすら「帰れ!」と怒鳴るだけだった。とりつくしまがないとはこのことだ。ヨーゲンは散々に怒鳴り散らした後、インタホンを切った。再び話しかけても何の応答もない。

しかたなく私は一度その場を離れ、近くの喫茶店に入った。私はヨーゲンのツイッターアカウントに向けてDMを送信した。

突然に訪問した非礼を詫び、あらためて取材を申し込んだのだ。
すると、これまた意外な返信が届いた。

「30分後に来てくれ」

あれだけ激昂しながら、今度は自宅まで来いというのだ。気が変わったのか、それとも何かの罠か、いずれにせよ会ってくれるというのだから、私にとっては悪い話ではない。

私は30分後に再訪した。
喫茶店から大通りを突っ切り、踏切を超えて細い路地を歩く。ヨーゲンの住むアパートが見えてきた。ここで、風景が少し前と違っていることに気が付く。

私の視界に飛び込んできたのは、アパート横の空き地に停められたパトカーだった。

状況は飲み込むことができた。ヨーゲンは警察に通報したのであろう。とはいえ、記者稼業をしていればこうしたことは珍しいものではない。ましてや週刊誌屋にとっては日常茶飯事だ。

私はその後の展開を予測しながらも、再びインタホンを押した。
ドアが開き、姿を見せたのは案の定、制服姿の警察官だった。
その際、玄関に立っているジャージ姿の男が見えた。初めて目にするヨーゲンである。

室内だというのに、なぜかヨーゲンはサングラスで顔を隠していた。私に顔を見られたくなかったに違いない。それにしても自室でサングラスとは、なんとも奇異な姿であった。
私はヨーゲンに話しかけようとしたが、警察官はそれを制し、私を室外に押し出した。

警察官によると「安田という男が脅しに来た」という通報があったという。
私は身分を明かし、目的は取材であることを説明した。警察官は「そうだったんですか」と驚いた表情を顔に浮かべ、「じゃあ、私どもがもう一度、彼に取材を受けるかどうか聞いてみます」とまで言ってくれるではないか。親切な警察官だった。

私は警察官と一緒に三度目のインタホンを押した。警察官が私に代わって「取材で来たようですよ」と説明してくれる。私も脅迫目的ではないと横から訴えた。しかしヨーゲンは「帰れ」「個人情報保護法違反だ」などと喚き散らすだけだった。結局、再びドアが開くことはなかった。

「無理みたいですね」と警察官も苦笑しながら、引き揚げたらどうかと促す。

仕方がない。相手が嫌だと言ってるのに敷地内に留まれば不退去罪だ。

私は後ろ髪をひかれる思いでアパートを後にし、その日のうちにいわきを離れた。

さて、その後──
間を置かずして彼の反撃が始まった。

「安田が襲撃に来た」「朝鮮人を引き連れて自宅まで襲いに来た」などと、妄想まみれの言葉をツイッターで書き連ねたのである。

私に電話してきたこともある。一方的に罵声を飛ばしたかと思えば、一転して、あなたも悪い人じゃない、などと口にすることもあった。

要するに彼は身元がバレたことで混乱していた。初めての経験に戸惑っていた。
私がときたま記事を発表している講談社の「g2」編集部に電話をし、担当編集者ばかりか社長を出せと詰め寄ったこともあった。

あるときには「私がネットで違法なビジネスをしているという噂が出ている。安田も取材しているようだが、そんな事実はまったくない。だから記事にするならば、私のビジネスについては一切触れないという誓約書を出せ」と編集者に迫ったこともあった。私はそのときにあらためて、彼が自らの商売に後ろめたさを感じていることを悟った。

いずれにせよ、ヨーゲンのこうした反応は予測できたことでもある。むしろ、それでよかった。少なくとも彼が私への敵意を募らせている間に関しては、在日に対するヘイトスピーチは抑制されていたからだ。いや、彼にとってはそれどころじゃなかったのかもしれないが。

一方、今回の件(ヨーゲン取材のあらまし)を私がツイッターに書き込むと、私に対する批判、非難も相次いだ。

「自宅を急襲した」「脅した」といったヨーゲンの書き込みを信じた者たちが、一斉に声をあげたのである。

「安田を許すな」「ひどいことをする」

そうした書き込みがネット上に氾濫した。

また、「匿名空間を破壊した」「個人情報を安田が暴露した」といった批判も少なくなかった。

ちなみに私はヨーゲンの本名も、正確な所在地もネットに書き込んだことはない。また、ヨーゲンの「被害者」を名乗る人々から彼の個人情報がほしいと何度も迫られたが、すべて丁重にお断りをしてきた。「仇討ち」の心情は当然理解できるが、それを煽ることが私の仕事ではないからだ。

とはいえ私が匿名であることを隠れ蓑としてヘイトスピーチに明け暮れる者を、現実社会に引きずり出したことは事実だ。しばらくの間、「安田許すまじ」の声はネット空間を飛び交った。

なかでも必死に安田批判の書き込みを重ねていたのは、ヨーゲンの取り巻きたちだった。

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