金融・投資・マーケット
【第66回】 円安は最終局面に入った!? 今後のドル円レートの動きを考える
〔PHOTO〕gettyimages

10月31日の日銀金融政策決定会合では、ほとんどの市場関係者が予想していなかった追加緩和が実施され、株高と円安の同時進行が起こった。

この追加緩和を受けて、為替市場関係者の予想はさらに円安方向に傾きつつある。この背景には、日米の金融政策の方向性の違いが鮮明になったと考えられていることがある。

米国では、10月末をもってFRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和の段階的な縮小を終了し、ゼロ金利政策解除に向けて準備を始める段階となった。一方、日銀の黒田総裁は会合後の記者会見で、今回の追加緩和に加え、必要であればさらなる追加的な緩和措置を講じる用意がある旨の発言をおこなった。

このことから、日米の金融政策の方向性の違い、もしくは、その結果としての日米金利差は、いずれも円安を示唆しているとの見方が圧倒的多数となったのである。

だが、マーケットというものは、ある程度は効率的で、市場関係者が持つ情報を早い段階で織り込む傾向がある。特に、誰もが普通に思いつくようなシナリオ、もしくは、新聞等のメディアが取り上げ、話題になった情報は、ほぼ瞬時に織り込まれ、その要因で相場が動くことはない。

「1ドル=115円」を超える円安は実現しにくい

FRBがゼロ金利政策解除に動くタイミングは明確ではないが、現時点では、それが来年6、7月頃に実現する可能性が高い、というのが米国市場のコンセンサスのようだ。また、日本の市場では、日銀が今後、マネタリーベースの拡大ペースを従来の年間70兆円程度から年間80兆円程度にまで引き上げることをアナウンスしている。

FRBが来年半ば頃に実施するであろう最初のゼロ金利解除と、来年にかけての日銀のマネタリーベース拡大(年間80兆円ペース)は、現在のドル円レート(1ドル=114円)にすでに織り込まれているものと考えられる。そのため、これら2つの要因をもって、1ドル=115円を超えるような円安が実現するというシナリオを想定するのは少々無理があると、私は考える。

よって、多くの為替アナリストが想定するような1ドル=115円を超えるようなさらなる円安が実現するためには、現在の市場ではまだ織り込まれていないが、今後、実現する可能性が高い新たな情報を発掘しなければならない。

例えば、「FRBはゼロ金利政策解除を来年早々に前倒しで実施し、その後は毎月0.25%ずつ利上げしていく可能性が高い」とか、「日銀がそう遠くないタイミングでさらなる追加緩和を実施する」というようなシナリオが取り沙汰されるような状況が必要がある。

また、場合によっては、金融政策以外の新たな要因を想定することも可能かもしれない。だが、現状、1ドル=115円を超える円安を予想する為替アナリストのロジックは、すでに織り込み済みと思われるものばかりであまり説得力がない。そのため、現在の市場環境では、1ドル=115円を超える円安が進行していくとは考えにくいのではないか。

一方、予想外に円が戻すというシナリオはいくつか考えることが可能である。例えば、FRB内では、ゼロ金利解除は慎重に進めるべきという見方があり、イエレン議長もその意見に賛成している。

また、過去にたびたび指摘したが、米国の予想インフレ率の低下をみて、ゼロ金利政策解除に慎重なスタンスをとるFRB高官が増えつつある。特に、来年のFOMC(連邦公開市場委員会)では、新たに投票権を得るメンバーの中にハト派が多く含まれるといわれており、現在の市場コンセンサスである来年半ば頃のゼロ金利政策解除が難しくなるというリスクを考えたほうがよいかもしれない。

例えば、来年FOMCで投票権を持つことになるセントルイス連銀総裁のブラード氏は、従来、ゼロ金利政策の解除を早期に実現すべきだとするタカ派的なスタンスをとっていた。ところが、予想インフレ率の低下を受けて、量的緩和の再開(QE4)を提案するなど、ハト派的なスタンスを強めている。

一方、日銀の追加緩和に関しては、多くの市場関係者から「もう限界ではないか」という声が聞かれるようになっている。すなわち、日銀がこれ以上追加で金融緩和をおこなうためには、JGB(日本国債)のさらなる買い入れ拡大を実施せざるを得ないが、これ以上の買い入れは現在の日本国債の市場を「壊してしまう」懸念が強い(特に流通している多くの銘柄は最近発行された銘柄であり、そのほとんどを日銀が買っているという現状を鑑みると、理論的には可能であっても実務上はなかなか難しいという見方が優勢のようだ)。

今回の追加緩和は同時に、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資産配分計画の見直しで大量の国債を売却することが決まり、それを日銀が追加緩和によって吸収できるからこそ可能になったという考えもある。

黒田総裁が記者会見の場で言及しているように、国債発行残高を考えると、理論的には日銀がさらに日本国債を買い上げることは可能である。だが、それを実現するためには、それこそ、「債券市場の機能を破壊する」という追加コストを費やす覚悟が必要な局面であろう。

そして、それは、日本経済が何らかの要因によって再びデフレリスクに晒される場合に限定されるだろう(よって、本題とはずれるが、仮に第2弾の消費税率引き上げが断行され、それに伴う景気悪化の加速がみられる場合がこれに妥当する状況かもしれない)。

そのため、日銀の次の追加緩和は今回以上に慎重なスタンスで検討されるだろう。よって、事前の予測は今回以上に困難、つまりはほぼ不可能に近いものになると考える。

以上より、筆者は、1ドル=115円を恒常的に突破するような円安局面は実現しにくいのではないかと考える。そして、この見方は2つの要因によってサポートされると考える。

ドル円でみた購買力平価の推移
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