【第65回】 量的緩和終了、米国株はバブルになりつつあるのか?
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「きわめて稀な状況」な予想インフレ率

10月28、29日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、FRB(連邦準備制度理事会)は無事に量的緩和の解除を果たした。その後も米国株式市場は堅調に推移しており、現時点までは量的緩和解除の影響は確認されない。

ただ、不安材料はある。これはFOMCでも指摘されていたが、予想インフレ率が過去の平均値に比べ低水準で推移している点だ。

予想インフレ率(ここでは、10年物インフレ連動債と10年国債利回りの差で定義される「ブレークイーブンインフレ率」を用いる)は、リーマンショック前までの平均で2.3%、その変動幅(標準偏差)は0.2%であった。統計学上、2標準偏差の中に全体の95%が入ることになるので、これは、米国の予想インフレ率が95%の確率で1.9%~2.7%のレンジに収まってきたことを意味する。

現在の予想インフレ率は1.93%だが、10月の半ば以降、1.9%をたびたび割り込む状況が続いた。これは、リーマンショック前の「正常な」米国経済を基準とすれば、わずか5%の確率でしか起きえない「きわめて稀な状況」ということになる。FRBが量的緩和の解除を、米国経済がリーマンショック前の状況に戻りつつあることを理由におこなったとすれば、この10月半ば以降、低水準で推移している予想インフレ率の状況は、FRBによる金融政策正常化が失敗するリスクを示唆しているのかもしれない。

もっとも、サマーズ元財務長官が指摘するように、世界的な低成長が低インフレをもたらしている側面は否定できない。そのため、予想インフレ率の平均的な水準自体が下方にシフトしたのではないかという見方もある。だが、リーマンショック後も、米国景気が回復する中、この予想インフレ率が、リーマンショック前の平均的な水準である2.3%まで上昇、その後、安定的に推移する状況もたびたびみられた。予想インフレ率の水準がリーマンショック時よりも下方にシフトした訳ではないのである。

また、別の予想インフレ率の指標であるミシガン大学の調査によれば、予想インフレ率は9月末時点で3.0%と、これはリーマンショック前(インフレ連動債利回りのデータが公表されるようになった2003年1月から2008年9月まで)の平均である3.2%からそれほど乖離しておらず、平均値自体が下方にシフトしたような兆候は確認できない(ちなみにばらつきを示す標準偏差は0.7%)。

世界的な低成長、しかも、世界的な金融危機が起点となった低成長が低インフレ期待をもたらしているとすれば、リーマンショックで最も大きな損失を被った家計部門の予想インフレ率はもっと低下してもよいはずである。すなわち、低成長期待が「ブレークイーブンインフレ率」を低下させているとの見方は論理的ではない。これを実証するためには、低成長以外の別の理由が必要だが、今のところ、筆者は思いつかない。

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